初版:2002/09/29
改訂:2003/04/10
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リムーバブルHDDのIEEE1394化

IDEのHDDをカートリッジに入れて交換可能にしたリムーバブルケースがあります。これは便利なものですが,IDEのI/Fそのままであるため,交換時にはOSを再起動してやらないと正しく認識してくれません。一方,最近はIEEE1394で接続可能なHDD製品も増えてきました。IEEE1394接続の場合,OSを再起動せずに交換しても認識してくれます。しかしIEEE1394接続のリムーバブルHDDというのは何故かほとんど市販製品がありません。もちろん各HDDを1台ずつ市販のIEEE1394変換ケースに入れて,ケーブルを抜き差しして交換することは可能です。しかしこれは変換ケースのコスト(10,000円前後)がHDDの台数分かかりますし,使い勝手もあまり良くありません。

そこで市販のIDE用リムーバブルケースをIEEE1394接続に改造できないかと考えるわけで,実際hiraliusさんがそういう方法についてレポートしておられます。私も真似してみようと思ったのですが,IEEE1394−IDE変換基板があまり簡単には入手できない(hiraliusさんは市販のIEEE1394変換ケースを解体して基板を流用している)こともありますし,また基板が入手できてもPCの筐体内に固定する方法を考えると面倒だということもあって,躊躇しておりました。

写真1.FW-142AiVを装着したHDD
写真1.FW-142AiVを装着したHDD

ところが,最近になって面白い製品を入手しました。台湾のIOI Technology社が製造しているFW-142AiVというIEEE1394−IDE変換基板です。基板と言ってもむき出しではなくプラスチックケースに収納されており,HDD等のIDEコネクタに直接差し込むだけで簡単にIEEE1394デバイスに化けさせてしまうというスグレモノです(写真1)。

この製品ならPC筐体内部での固定方法について考える必要がありませんし,価格も6,500円前後と安価です。採用している変換チップは定番のOXFW-911ということなので性能的にも期待できます。数カ月前から秋葉原の一部のPC専門店では取り扱っていたようですが,先日ビックカメラ有楽町店に置いてあるのを偶然見つけて衝動買いしてしまいました。

ここまでお膳立てが揃ってしまえばあとはやるだけだということで,実際にリムーバブルケースのIEEE1394化を試みました。以下のレポートは内容的にはhiraliusさんのレポートの二番煎じにすぎません。しかしハードウエアに関しては全くの素人である私でも難なくできたということでご報告する価値があると思いました。

CONTENTS
1.FW-142AiV
2.ホットスワップを可能にする
3.使い方

nextprev 1.FW-142AiV

このFW-142AiVという製品は変換基板をプラスチックケースに収納し,各種コネクタだけが表面に露出しています。IEEE1394コネクタは標準の6pinのものが2つ,IDEコネクタはプラグの方が付いています。変換基板自体を駆動するための電源は,FDDで使われている物と同じ4pinの小型電源コネクタから供給します。電源分岐ケーブルと6pinのIEEE1394ケーブルも付属していますので,これを買ってきて各ケーブルとコネクタを差し込むだけでIDE HDDがIEEE1394 HDDに変身してしまいます。

写真2.FW-142AiV (IEEE1394コネクタ側)
写真2.FW-142AiV (IEEE1394コネクタ側)
写真3.FW-142AiV (IDEコネクタ側)
写真3.FW-142AiV (IDEコネクタ側)
※ 3Mのロゴが入っているのは両面粘着テープ

もちろんHDDに限らずCD-ROM等も含めてIDEデバイスなら何でも使用可能です。そこでこれを市販のリムーバブルケースに付けてみました。リムーバブルケースはIDEのものなら何でも良いのですが,私はよく売られているオウルテックのOWL-MR32UAE/66を使っています。

まず単純に取り付けて配線してみましたが,特に問題なくIEEE1394 HDDとして動作します。しかしHDDカートリッジを交換すると,交換したHDDを正常に認識してくれません。これは考えてみれば当たり前の事です。OS側から見た場合,IEEE1394デバイスとして見えているのはあくまで変換基板であるFW-142AiVであり,その先のHDDが交換されたかどうかは知るよしも無いからです。

一般的にIEEE1394デバイスの交換をOSに認識させるには次の2通りの方法があります。
リムーバブルケースはPC筐体内に組み込んで使いますので,いちいちIEEE1394ケーブルを抜き差しすることはできません。したがってIEEE1394デバイスの電源をOFF→ONする方向で考えます。付属の電源分岐ケーブルは単純に分岐するだけのものですから,カートリッジ側の電源とは連動してくれません。つまり変換基板FW-142AiVへの電源はカートリッジとは無関係に常に給電された状態ですから,OSがカートリッジの交換を認識できないわけです。

nextprev 2.ホットスワップを可能にする

変換基板FW-142AiVに常時給電されているのが問題なわけですから,これをカートリッジ側の電源と連動させることができれば解決します。hiraliusさんのレポートで詳しく説明されていますが,このリムーバブルケースはカートリッジとの接続に使うアンフェノールコネクタの一部のピンに電源ラインを通しており,リムーバブルケースのキーを回すことでこの電源ラインがON/OFFされます。したがってこのアンフェノールコネクタ部分から並列に電源を取り出してFW-142AiVに給電してやれば良いことになります。

写真4.OWL-MR32UAE/66のコネクタ部分の基板
写真4.OWL-MR32UAE/66のコネクタ部分の基板 (電源ケーブルをハンダ付けで追加した後)

リムーバブルケースからコネクタ部分の基板を取り外し,カートリッジ側の基板と共にプリントパターンを調べたところ,写真4の左側の4対のピンが順に+12V,GND,GND,+5Vの電源ラインになっていました。もちろん念のために給電時の電圧をテスタで計って確認しています。それからFDD用の電源コネクタが付いたケーブル(長さは10cm程度)を用意して,ここにハンダ付けします。ケーブルはPC用電源変換ケーブルがいろいろ売っていますので,安いものを買ってきて切り取って使うのが簡単です。

ハンダ付けをするのは数年ぶりなのであまりキレイに仕上がりませんでしたが,そんなに高いスキルが必要な作業ではありません。隣とくっつかないように注意しながら4本の線(実際にはGNDは共通ですから片方だけでも構わないのですが)を接続するだけです。ショートしていないことをテスタで確認したら,後部の隙間から引き出すようにしてリムーバブルケースを再度組み立てます。

ここでリムーバブルケースに電源だけ配線して,キーを回してこのラインへの給電が行われていることや,供給されている電圧をテスタで確認します。電源ラインですから配線ミスは部品の破壊や発火につながります。念入りな確認が必要です。

写真5はリムーバブルケースにFW-142AiVを装着し,先ほど追加した電源ラインを接続したものです。これによりFW-142AiVはカートリッジと同期して電源のON/OFFが行われるようになりました。

※FW-142AiVに+5Vと+12Vの両方の電源が本当に必要なのかどうかは疑問で,実際には+5Vだけでも動きそうな気がします。もっとも作業の手間はたいして変わりませんし,検証するのも面倒ですから両方とも配線してしまいました。
写真5.OWL-MR32UAE/66にFW-142AiVを装着 写真6.小型ファン用の電源コネクタが埋もれてしまう
写真5.OWL-MR32UAE/66にFW-142AiVを装着


写真6.小型ファン用の電源コネクタが埋もれてしまう

このリムーバブルケースには小型の冷却ファンが付いているのですが,ファン用の2pin電源コネクタがちょうどFW-142AiVのコーナー部分の下に埋もれてしまう位置関係になっています(写真6)。このためFW-142AiVを装着すると冷却ファンに電源を供給することができません。別途供給を考える必要があるわけですが,面倒なのでとりあえずこのまま放置してしまいました。OWL-MR32系のアルミカートリッジを使えば冷却ファンを動かさなくても多分大丈夫なんじゃないかと思いますが,気になるなら他の部分から電源を引っ張ってくるなど工夫する必要があります。

なお,FW-142AiVには隅に2pinのジャンパピンのようなものが出ています(写真2)。もしかするとこれが電源コネクタなのかなと思いましたが,テスタで計っても特に電源電圧は出て来ないようでした。おそらく何か内部設定を変更するためのジャンパピンなのでしょう。おそらくというのは,マニュアルに説明が無いからです。もちろんマニュアルは付属していたのですが,各OSでIEEE1394デバイスを取り扱う方法などが書かれているだけで,このハードウエア自体に関する説明は一切ありませんでした。困ったものです。(笑)

※この謎のジャンパピンのような物ですが,HDDのアクセスランプとして動作するLEDを接続するためのコネクタだそうです。読者の方からメールで教えていただきました。 (2002/12/31 追記)
後はPCの筐体に組み込んで電源とIEEE1394の配線を行います。付属の電源分岐ケーブルは不要になっています。私の使っているIEEE1394 I/FボードはメルコのIFC-IL3というもので,基板上に筐体内側向けのIEEE1394コネクタが1つ付いています。これを使いましたのでケーブルを外から引き込まなくて済みました。

nextprev 3.使い方

カートリッジを入れていない状態では,FW-142AiVに給電されていないためOSにIEEE1394デバイスとしては認識されません。カートリッジを入れてキーを回すと,給電されてデバイスがOSに認識されます。外付けのIEEE1394接続HDDで電源を後からONにした場合と同じ状態です。

カートリッジを交換する時は,通常のIEEE1394接続HDDと同様にタスクトレイの[取り外し]アイコンをクリックしてデバイスを停止します。その後カートリッジを交換してキーを回せば再び新しいデバイスとしてOSに認識されます。OSを再起動せずに何度でも交換可能です。

オウルテックの安いIDE HDDカートリッジを使ってホットスワップが可能になったわけで,非常に便利になりました。オウルテックがリムーバブルケース側に連動電源コネクタを付けた製品を出してくれれば,ハンダ付け無しでもっと簡単に同じものが作れるようになるんですが,さすがにそういう製品は出してくれないでしょうかね。(笑)

さて気になる性能ですが,HDBENCHを使って計ってみました。使用したHDDはSeagate ST380021A(Barracuda ATA IV)です。

表1.HDBENCH 3.30による性能評価 (KB/sec.)
製品 Read Write Copy
FW-142AiV + ST380021A 25561 21296 5126
デンノーmathey + ST380021A (参考) 37034 28475 14593

残念ながらOXFW-911を使っている割にはイマイチという感じですね。同じ変換チップを使っているmatheyより少し遅いです。とはいえ十分実用になる速さですから割り切って使えば問題ありません。

なお,Big Driveつまり137GBを超えるHDDに対応しているかどうかですが,残念ながら時間が無くて確認できませんでした。160GB HDDは手元に4台あるのですが,いずれも使用中であるためすぐにはテストに使えないという個人的な事情です。もちろんそのうち機会を作って試してみるつもりです。

※その後160GBや200GBのHDDを使ってみましたが,問題なく使えました。Big Driveへの対応は特に問題ないようです。 (2002/04/10 追記)

参考文献

更新履歴

2002/09/29 初版
2002/12/31 謎のジャンパピンの正体について補足
2003/04/10 Big Driveへの対応について補足


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