初版:2004/08/24
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水冷PCを空冷する

NECのVALUESTAR TXは,CPUの冷却に水冷機構を使った水冷PCです。動作音は非常に静かなのですが,ラジエータ部分のファン以外に空冷ファンは一切無いため,筐体内部にはエアフローがほとんど発生しません。CPUだけは確実に冷却されていますが,メモリやHDDといった他の発熱デバイスの冷却についてはあまり考慮されていない設計だと言えます。

特に問題となるのがHDDで,2台搭載すると上側のHDDがかなり高温になります。今年の夏は猛暑ということもあって,5400rpmのHDDでも簡単に50℃を超えてしまいますし,7200rpmのHDDだとさらに高温になります。HDDの動作限界温度は製品によって異なりますが,いずれにせよあまり高い温度で使い続けるのはHDDの寿命を縮めることになってしまいます。

温度を下げるには冷却するしかありません。水冷システムに手を加える余地はありませんから,空冷ファンを追加することを考えます。ここで問題となるのは,空冷ファンそのものの騒音と,取り付け方法です。静かなPCが欲しいということで水冷PCを選択したのですから,追加した空冷ファンがうるさくては本末転倒です。また,筐体も本来空冷ファンを取り付けられるようにはなっていませんから,取り付け方法も一工夫しなくてはなりません。

以下は実際に空冷ファンを付けてみた結果の報告です。

CONTENTS
1.空冷ファンを取り付ける
2.空冷ファンの効果

nextprev 1.空冷ファンを取り付ける

VALUESTAR TXの筐体は,元々余計なファンを取り付けられるようにはなっていません。ファンを追加するのに一番安直な方法は,PCIスロットに差して取り付けるファン製品を使うことです。このような製品は数社から出ていますが,スペックを調べるといずれも動作音が20dB以上で,あまり静かなものは無いようです。それにPCIスロットのファンでは筐体内部の空気をかき回すだけ(それだけでもある程度効果はあるとは思いますが)で,直接HDDに風を当てることはできません。

結局,単体で売られている静音ファンをなんとかHDDベイの下に取り付ける方向で考えることにしました。購入したのはオウルテックから販売されている山洋電気の80mmケースファン「F8-SSS」です。風量は少なめですが,音圧レベルが10dBしかないため全体の騒音の増加をごくわずかに抑えられます。

取り付け方法についてはいろいろと試行錯誤しました。VALUSTAR TXのHDDベイはケージ状になっており,下側しか開いている空間は無いので,ファンを取り付けるにはケージ下部にぶらさげる形になります。HDDケージを拡張する金具の類も探したのですが,うまくファンを固定できるものがありませんでした。したがって金具での固定にこだわるのであれば,パンチングメタル等を使って自作する必要があります。そこまで大がかりな労力をかける気にはなれないので,もっと安直な方法を模索しました。

次に考えたのは両面テープでケージに貼り付ける方法です。しかし両面テープは劣化してはがれる危険性があります。動作中のファンが筐体内部で落下するとシャレにならない損害が発生すると思われるので,もう少ししっかりした固定方法をとるべきでしょう。

針金でケージにしばりつける方法も考えられます。4つのネジ穴すべてを縛りつければそれなりにしっかり固定できそうです。しかし針金は導体なので,万一HDDの基板等に接触すると電気的な故障を引き起こす可能性があります。ビニール被覆された針金や「ねじりっこ」の類を使えばたぶん大丈夫でしょうが,できれば金属を使わずに固定する方が安心でしょう。

そういうわけで,最終的にたどりついたのがプラスチックのケーブルタイです。パソコンでも内部の配線コードを束ねたりするのによく使われるものです。価格も安いですし,針金並に強くしばりつけて固定できます。空冷ファンはHDDケージに密着させるより少し離した方が良いと思われるので,円筒形のプラスチックのスペーサ(長さ10mm)を間にかませることにしました。いずれも東急ハンズの資材売り場で安く購入できました。

写真1.ケーブルタイとスペーサで固定する 写真2.取り付け後の状態
写真1.ケーブルタイとスペーサで固定する 写真2.取り付け後の状態

なお,空冷ファンの電源は余分なコネクタがマザーボードには無いため,HDD等の電源から分岐させる必要があります。F8-SSSには分岐コードは付いていないので,別途購入してきて配線しました。

nextprev 2.空冷ファンの効果

HDDの温度の計測には「HARDDISK TEMPERATURE MONITOR」というフリーソフトウェアを使いました。これはS.M.A.R.T規格に対応しているHDDの温度を自動的に計測してくれるツールです。空冷ファンを追加する前後でのHDDの温度は表1のように変化しました。

表1.空冷ファンの効果
HDD温度 アイドリング時 高負荷時
HDD1 HDD2 HDD1 HDD2
空冷ファンを追加する前 44℃ 50℃ 53℃ 57℃
空冷ファン追加後 36℃ 39℃ 47℃ 53℃
※HDD1:MAXTOR 4A250J0/HDD2:MAXTOR 5A300J0

ファンの風が直接当たるHDD1の方がより効率よく冷却できていますが,HDD2もそれなりに温度が下がっています。特にアイドリング時の温度は劇的に低下しました。高負荷時にはHDD2が50℃を超えてしまいますが,負荷が無くなるとすぐに温度も下がってきます。空冷ファンが無い時は負荷が無くなってもなかなか温度が下がりませんでした。

ファンの騒音もHDDの動作音に紛れてしまうため,全体の騒音の量はほとんど変わらない印象です。このファンを選択したのは正解だったと言えるでしょう。


VALUESTAR TXをきっかけに各社から水冷PCが次々に発表されるものと思っていましたが,秋葉原で売られている組み立て用パーツを別にすれば,大手メーカー製品はいまだにNECだけという状況です。技術的に難しいのは確かでしょうが,最近のPCの発熱の大きさを考えるとやはり水冷しか解決策は無いと思うのですけどね。早く選択肢が広がる時代が来てほしいものです。

参考文献

更新履歴

2004/08/24 初版

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