- 詩集 -
傷 つ い た 天 使 の 寝 言

涙について 深層心理の奥に潜む 隠しきれぬ悲しみが 群青の泉を干上がらす 振舞う仕草は人形のように 惑う瞳は死の淵に あなたの口唇は蒼褪めたまま 受け入れる容器を知らぬまま 失われた水は体を濡らし 夜の冷気にひえてゆく
孤独 すべての夢は覚めない 在りうるのは身をけずるだけの時空 頬をつたう涙はどこへゆくのでしょう。 あなたを愛する人は過去にいます。 あなたが愛する人は未来にいます。 明日もあなたは独りでいます。 その心を濡らすのは、流れていった涙です。
流れ いつでも瞳あわせず 人ごみを抜けて生きていく。 水分の抜けてくからだ、崩れ落ちてゆく。 脳みそ発酵しかけてるのは べつにかまやあしないんだけど、 瞼を閉じることさえも、できないことが 記憶に残らない者の、願いだったりするんだ。 風に吹かれるあの砂に、なりうるだろう、私の。
継承 この虫食いだらけの身体に 美しい蝶が卵を生むのです。 この身体が動きさえしたら 振り落してしまいたかった。 知っていたのですね、あなた 傷つけられし者が 抗えない事を。 せめてもの抵抗として 花を咲かせましょう。 そして 残骸に種を。 はかなき命のために。
幽霊 身体を切り刻んだのは 言葉。 心臓を止めたのは 信頼。 望んだのは 少しの優しさですか?
脱走犯 カウンセラー欺いて セラピーをエスケープ 消毒液の染みた服 脱ぎ捨てて 点滴跡の痛い腕 振り回す 久し振りに嗅いだ陽射し 脱水症状倒れ込む 透き通った水が欲しい 相も変わらず聞こえるのは 無機的な靴の音 黒の視界を開けば 又も白の世界の壁 空回りするココロの波音
獣心 野獣の子がいた 屍色の身体 その死んだ眼には 殺されたあいつが映ってる 残酷なほど痛そうに 君の牙が肉を裂く 肌を血が滴り落ちて 戻れない もう人間には 血肉もろとも食い尽くした すでに僕は君の屍 なにも映ってなどいやしない ましてやあの世の屍なんて あるのは暗闇 星も無い 渇いている咽奥深く 雨が欲しい
昇華 流れうるざわめきをを消さないで 熱き願いが逆流して 堕ちてゆく昂ぶりがもどかしい 戻れない 葛藤を感じない今は もう 時はトマッタ もう 進みもせず 戻りもせず ただ 消耗するだけ 頬を 涙がつたうだけ
痩せぎす 凌駕した 解かりすぎて食欲を失くす 堕ちてゆく身 痩せた身体 愛撫する 肌を咬む 血も見えず骨まで辿り着いても 美味い味の誘美も 不味い味の吐き気も 肉付きのいい肌の甘美も 肥満の嗚咽も 聴いちゃったから 見ちゃったから 食っちゃたから 今じゃ我が身体の味も 飽き飽きしてる 充実の欲望も廃れ気味 違う味が無い事も 新鮮さが在り来たりな事も 自分では生み出せない事も もう手遅れな事も 痩せた身体 愛撫しよう 骨ばった手で 渇いた口で 色の無い舌で 堕ちてゆく身に涙しよう 潤いの無い瞳で...
別離 何もかもを熱く 消え入るように溶かす 夕闇と混ざり それは、もう 容貌とどめない太陽 青き闇斬りひらき冴える月がやってくる 太陽と見違う程の 夜明け前の月 膨張した心のよう 欲望の色現してる 清らかな太陽がやってくるまるで処女の紅さで 朝の風吹く頃 似ていて似ない 相反する魂が 明星を請う 虹を願いながら
眠り歌 何も知らない幼き奴が 見知らぬ言語の曲を聴く 好奇心をなぞられて なんなく染んだそいつの声は 瞳の奥をすり抜けて 熱きモノを流させる 疑心をなだめキスをする 誰にも見せたことのない、その顔 君にだけ 君の声にだけ そこには確かなモノがあった 揺るぎなき魂 冴え渡る響き そばにいる そばにいる 声だけは 君の声だけは・・・
悲しみはとめどなく 喜びはかぎりなく 寂しさは愛しさを 満ちたりはなくて…
崩壊 何もかもを壊したかった 何もかもが無駄に見えた なぜ生きるのか 結末は 生まれいでた その時から 快感、苦痛だけで 味があるかもわからずに 気づいた時は 傷ついていた あなただけ アナタダケ
観察 千鳥足の病人が徘徊する廊下 持て余した知能に毒された人間 機械的人間が作業をこなす監視部屋 泥の味、鉄の感触の料理が 定刻どおりにやってくる 規則的食事をする奴ら 味など解かりゃしない 今日の天気はなんなの? 四角い箱の生物 生き死に関係ありゃしない
願望 血を流し続けることでしか 時間の潰し方を知らない子供。 傷をなめあうことでしか 時間を共有できない大人。 背中合わせで泣いてるの? この想いが乾く前に もしも振り向けたなら… モシカシタラ…
消耗する季節 あいつは今だにあそこにいるよ。 軽い陽光にさらされて 淡い眠りをむさぼっている。 さわやかな風に誘われて 瞳を閉じれば 君は笑っているのに 瞳を開けば 青ざめた顔。 今はおだやかな時間が いつか消えてしまう予感に 祈りを捧げることしか できません。
無力 十字を斬った後に気づいたんだ。 神なんかいやしないってことにね。
風化 この願いが届く前に 流れ星は落ちました。 この祈りが召される前に 神は去りました。 この声に耳を傾けるものは もう、誰もいないのです。 この身体をつつむ全てが 冷たい死装束へ。 子羊ができるのは 身を大地へ戻すこと それだけだったのです。
接触 あまりにも近すぎて この想いが見えないのですか? あまりにも遠すぎて この刹那さが届かないのですか? この身体の悲鳴が 聞こえますか? この流れる血を感じていますか?
天使と悪魔 僕の心の片隅に 天使と悪魔が棲んでいた。 ある日悪魔が家出した。 天使の翼は抜け落ちた。 ある日天使が家出した。 悪魔の角は折れました。 それからは いつも二人は手を繋ぎ 僕の心の片隅に。
夢遊 夢の中で 遠いあの日のことを思い出す。 現実で考えても答えのでないこと。 夢の中では楽になれる。 もし、引きずられそうになったら 貘に夢を食べてもらう。 もし、眠れなくなったら 羊の数を数えるんです。 ほら、あなたは 夢の中の旅人。
ドア パパは力を振りかざし ママは愛を突き刺した。 子供は叩き続けた。 ―――――ドアを。
流星 キラキラお星様。 ヒューンと落ちてく。 まっ逆さまに落ちてく。 あっという間に消えた。 みーんな忘れた。 お願い事もみーんなみんな。 みーんなみんな見てたのは まわるまわるお月様。 お願い事も、お星様も。 お願いできなかった 死んだあの子も。 生まれなかった お星様も。 みーんなみんな見てたのは。
走る 走る走る走る! 一直線にどこまでも。 地平線にはゆらめく陽炎。 ゴール目指してひたすらに! 走る走る走る! 可能性を信じて。ひとかけらの。 走る走る走る… 飛べたなら良かったのに。 僕は走ることしか出来ない。 止まり方さえ知らないんだ。 まだ走らなきゃ。ほら。
湖面 冷たい水面に 広がる血液。 透き通った水に沈む。 赤い色した温かい。 混ざり合って増した溶液。 血液はもう赤くない。 薄い綺麗なピンク色。 まるで子供の憧れた 夢のように…… なまぬるい水面下 沈んでゆく出来事。
三日月バナナ それは三日月の夜のこと。 月明かりに照らされて。 お腹空かした子供たち。 星にお願い事をした。 黄色いバナナを食べる夢。 お腹いっぱい食べる夢。 月明かりに照らされて。 それは三日月の夜のこと。
ランデヴー 灰青色に沈む月。 瞳に映る涙の星。 水に沈んで泳いでく。 冷たい手足を撫でさする。 あおむけばランデヴー。 月と星がキッスした。
元天使 飛ぶ夢を見たよ。 白い翼を羽ばたいて。 堕ちる夢を見たよ。 白い牙を剥き出して。 ねぇ、神様。 抱きしめてくれる?
冷蔵庫の神様 おさらばする日がきた。 あの子が痩せ細っていった時、 泣きながら食材を詰めてたママ。 誰もいない家で ひとり食事をとってた子。 扉を叩きつけられたこと。 腐っていった食べ物たち。 それでも新鮮な食べ物が 絶えることはなかったね。 「ねぇ、今日の夕ご飯なあに〜?」 「今日はねぇ、」 「ただいまー」 おかえりなさい。 新しい冷蔵庫にも しあわせたくさん詰められますよう。
警告 心配しているようなことは起きないだろう。 しかし思いがけないことが起きる。 それはあなたの気づいていない過ちかもしれない。 ただの偶然にしろ。
叫び うるさい! うるさい! うるさい! さみしい。

Copyright(C)2002 空 All Rights Reserved. rjuna@mail.goo.ne.jp