急性腹症プロトコール

救急治療室


目次

     
  1. 急性腹症初療時の注意  
  2. 腹部エコーを見るときのポイントは  
  3. よく見かける急性腹症     
  4. 鑑別を要する泌尿器科疾患     
  5. 鑑別を要する婦人科疾患     
  6. 鑑別を要するその他の疾患   


1.急性腹症初療時の注意

  急性腹症の患者が来たら、まずエコー室に運び、問診を行い、触診や打診などの診察をした後、腹部エコーを行う。すぐに触診を行うのでなく、病歴をしっかり聞くことが必要である。他院や他の医者が付けてきた診断名に振り回されてはならない(全く無視して考えたほうがかえって良い)。その後、腹痛のないところからゆっくり触診を行う。鼡径部までしっかり視診・触診を行い、鼡径ヘルニア・大腿ヘルニアの嵌頓や精索炎・副睾丸炎なども見逃さないようにする。腹部エコーも腹部全体を見て閉鎖孔ヘルニアなどを見逃さないようにする。

  診察後の単純写真は立位の胸写・腹単(abdomen)と、腹部仰臥位(KUB)を3枚セットで必ず撮る。寝たきりや血圧低下などで、立位が出来ない患者で腹膜炎が疑われ,腹腔内遊離ガスの存在の可能性があるときには、臥位の胸写・腹部仰臥位に左側臥位の横隔膜を入れての腹単(胸写に近い条件で)の3枚セットで撮る。


2.腹部エコーを見るときのポイントは

・肝臓・胆嚢・脾臓・膵臓・腎臓など、実質臓器の形態異常の有無。 
・胃・小腸・大腸などの管腔臓器の壁肥厚や内容物貯留異常の有無。
・モリソン窩・ダグラス窩・膀胱上窩・肝表面などにおける腹水の有無・性状。
・子宮・卵巣など婦人科的異常の有無、特にGSの有無・卵巣嚢腫の有無。
大動脈瘤の有無・総腸骨動脈瘤。内腸骨動脈瘤の有無。
・両側の胸水心嚢液貯留の有無,閉鎖孔ヘルニア等の腹腔外の異常所見の有無

 これらは腹部エコーを見るときに必ず,全部チェックしなければならない.異常所見があるところばかりを見ていると,他疾患を見落とすことがあるため,まず最初に全部をチェックし,次いで異常所見があるところを念入りに調べるようにしなければならない.

 穿刺出来る腹水が有るときにはエコーガイド下の腹腔穿刺を行い、腹水の性状を調べる。漿液性か、血性か、膿性か、腸液かを肉眼的に判定すると同時に、緊急検査に提出し、腹水中の白血球値・アミラーゼ値・ビリルビン値をチェックする。


3.よく遭遇し、注意しなければならない急性腹症としては

急性虫垂炎

  先行する心窩部もしくは腹部全体の痛み・臍上部痛があり、悪心嘔吐・食欲不振などの消化器症状を伴い、右下腹部に限局した圧痛、場合によっては下腹部正中まで響く痛みがあり、更に白血球増加発熱などの細菌感染の症状が揃っていれば、急性虫垂炎として開腹の適応である。開腹の適応になるような虫垂炎の場合には腹部エコーで虫垂が描出できることが多い。炎症初期に穿孔を起こすと下腹部全体に腹膜刺激症状が顕著で、発熱があり、下腹部の所見に左右差が無くなるため要注意である。上記のいずれかの症状が異なっていれば、他疾患の可能性を考え検索する。しかし最初から右下腹部痛にて発症するものが約2割有り、消化器症状を全く伴わないものもある。叉軽度の下痢(軟便)を来たすものもあるため、最終的には右下腹部の腹膜刺激症状(顔をしかめる程の圧痛もしくはディファンス)と、白血球増多(一万以上)などの炎症所見と腹部エコー所見により開腹適応を決める。しかし高齢者では穿孔を起こしていても発熱や白血球増加を伴わないことがあるため,注意しなければならない.また水様下痢の場合や腸管内に液体貯留が大量に触れるとき(触診で、ポチャ・ポチャと音がする)には下痢が無くとも急性腸炎と考えて保存的に経過を観察出来ることが多い。

  腹部エコー(原則として5MHzを使用する)では、虫垂炎が進行すると、虫垂は腫大し,炎症の初期には壁肥厚を来し,三層構造を呈しているが,炎症が進むと,壁構造が壊れて,全体がlow echoicになる.虫垂炎が進行すると間接所見として盲腸周囲の壁肥厚(盲腸及び回腸末端)が出現する.炎症を起こしている虫垂は内容物が動かず,追っていくと先端が盲端になり,根部に糞石を有し,上から圧迫しても潰れない,などの所見で腸管と鑑別できる。右下腹部の麻痺性イレウス像ダグラス窩の腹水所見も出現する。

  心窩部に始まる右下腹部痛の病歴・1万以上の白血球増加・局所のハッキリした圧痛所見(Point tenderness)があれば、筋性防御やリバウンドが無くとも虫垂炎と考え手術をした方が安全である。開腹は穿孔例も含めてほとんどの症例が横切開(+Muscle Splitting法)にて処置できるが,汎発性腹膜炎を起こして時間が経っており,大量の腹水が認められる症例には下腹部正中切開を行う.傍腹直筋切開は原則として行ってはならない(特に小児は!).時間が経つと腹直筋の委縮を起こし,醜い傷を残し,ヘルニアを起こしやすい.手術のしやすさを考えて傍腹直筋切開を基本としている施設があるが邪道である.閉腹の際は原則として腹膜から(腹膜は連続縫合)筋膜まで吸収糸のモノフィラメントにて縫合閉鎖する(当院ではマクソン4-0を使用,PDS-IIでもよい).穿孔を起こして皮下脂肪が厚ければ高率に創感染を起こすため、汚染がひどければ皮膚は開放とする。また皮下脂肪が厚ければ、皮下に獎液が溜まってくるため、高齢者や汚染が強い症例で皮膚を閉鎖する場合には皮下ドレーンを挿入する。

  5才以下、70才以上の急性虫垂炎手術症例では、手術時にはほとんど穿孔を起こしていることが多い。5才以下ではまだ虫垂壁が薄いために早期に穿孔を起こしやすく、70才以上では虫垂壁がもろくて炎症が進むまで症状が軽いために穿孔を起こしやすいと考えられる。

  急性虫垂炎と考えられた場合、手術を急いだほうが良い症例としては、妊娠中の女性・著しい肥満者・精神障害者などがある。これらの症例はいずれも穿孔して腹膜炎になった場合に後の処置が大変であり、病悩期間が長引くことになるからである.特に妊娠症例は穿孔により流産・早産率が増加し、穿孔していない段階で手術すれば、流産・早産率にほとんど変化はないと言われているため,妊娠症例では虫垂炎を疑えば早期に開腹する必要が有る.

  注意! 急性虫垂炎の初期は,悪心・嘔吐を伴う心窩部痛で受診する.その段階でも注意深い触診を行えば,右下腹部に圧痛が有ることが多いし,腹部エコーで炎症のある虫垂が見つかることもある.問診のみで触診や腹部エコーをおざなりにしていると急性虫垂炎の初期を見逃し,他院にて虫垂炎と診断され,結果としてやぶ医者扱いをされることになる.
  心窩部痛で来院した患者は,否定できるまでは虫垂炎の可能性が有るものとして経過を観察する必要が有る.

盲腸-上行結腸憩室炎

  急性虫垂炎に比し、先行する心窩部痛が少なく、消化器症状が少ない。圧痛の位置がやや上方で外側か内側に偏位することが多いが、腹部症状からは急性虫垂炎と区別が付かないことがしばしばある。憩室炎が進行すると、腹部エコーでは局所的な圧痛の部位に炎症を起こしてlow echoicになった憩室が大腸壁より突出しているのが確認でき,周囲の大腸壁の全周性の肥厚も見られるようになる.憩室につながる腸管がないため,虫垂炎と鑑別できる.基本的には抗生剤投与にて改善し,手術の必要性は少ないが,腹部エコーにても虫垂炎との鑑別が困難であれば開腹した方が安全である.開腹時に憩室炎が腸間膜側に無く、freeの状態であれば、憩室根部を注意深く露出して憩室切除を行うことができるが,腸間膜内に埋まっていればそのまま閉腹し,術後に強力な抗生剤療法を行う.抗生剤投与にて改善したら,炎症が収まった段階で注腸透視を行って憩室の存在範囲を確認し、何回も憩室炎を繰り返すようであれば憩室部を含む回盲部切除を考慮したほうがよい.


特発性大腸破裂

  慢性便秘の老人が早朝の排便時などに力むことにより発症することが多い。S状結腸・直腸に多いため、突然の左下腹部痛・下腹部痛で発症することが多いが、下行結腸や横行結腸・上行結腸で起こることもある。胸写や腹単にてfree airが確認されたらもちろん開腹の絶対適応であるが、突然の腹痛で発症し、特に左下腹部痛・下腹部痛・左下腹部圧痛・下腹部圧痛を訴える場合、まず、ガストログラフィンによる注腸透視を行うのが早期診断・除外診断の役に立つ。

  汚染がひどかったり、時間が経過している場合などには来院時の白血球数が減少していることもよくある(約1/3の症例で白血球減少がある)。白血球数が減少している例は術後に敗血症性ショック・DICが必発であり、要注意であるため,集中治療室にて観察したほうがよい.また最初からFOY(2000mg/日)・ドーパミン・ミラクリッド(30万単位/日)・G-CSF(ノイトロジンやグラン等)を使用する.血圧が80mmHgを維持出来なければドブタミン・ノルアドレナリンを使用して80mmHg以上の血圧を維持する.大腸破裂が疑われれば、術前に注腸透視にてどこが破れているかを確認して手術を行ったほうが、手術方法を考慮したり、術前説明を行うのに良い。注腸透視を行うことに汚染を悪化させると言って反対する人もいるが,すぐに開腹すれば特に問題はないと考えられる.開腹して腹腔内汚染が強く、穿孔部が脆弱であれば口側に人工肛門を作る場合もあるが、破裂部がそのまま腹腔外に出せればそれをそのまま人工肛門として用いることもできる(exteriorization).汚染の程度が少なく、腸管内に便が余り溜まっていなければ、一期的に穿孔部の縫合もしくは吻合を行ってもよいが、その際には縫合部周囲の糞塊は術中に出来るだけ押し出していたほうがよい。S状結腸・直腸の破裂であれば自動吻合器を用いて一期的に縫合することも可能である。いずれにせよ閉腹時には太いナイロン糸(当院では2号ナイロンを使用)タイガンにて全層縫合を行い,筋膜は1-0マクソンの結節縫合を行い,皮膚は開放とし,生食ガーゼ湿布にてOpen drainageを行っておいたほうが良い.創感染は必発である.

  同様に大腸穿孔を起こす疾患としては、大腸癌穿孔(これには大腸癌そのものの穿孔・大腸癌の口側5 〜10cmの破裂・盲腸の破裂(盲腸の直径が10cmを越えたら破裂の可能性あり!)が1/3ずつ有る)、大腸憩室穿孔偽膜性大腸炎の炎症による穿孔などがある。いずれも術前にガストログラフィンによる注腸透視にて診断を確定して手術に持っていく.


胃十二指腸潰瘍穿孔

  十二指腸潰瘍穿孔では、1〜2週間前より先行する空腹時痛(hunger pain)夜間痛(night pain)があることが多い。突然、急激な心窩部痛にて発症する。板状硬となり、free airを認めるが、来院時にはまだ認められないこともある。胃潰瘍穿孔は比較的心窩部に疼痛が限局するのに対し、十二指腸潰瘍穿孔は心窩部から右上腹部→右下腹部へと痛みが移動するため、軽い場合には急性虫垂炎と間違うこともあり、注意が必要である。若くない人で手術を行わざるを得ない症例・とくに胃穿孔の症例では、術前に胃内視鏡を行い、胃内の他病変の有無と穿孔部位・程度の確認を必ず行う。胃穿孔においては胃癌の穿孔である可能性が結構高いからである。

(十二指腸潰瘍穿孔の保存的治療)

  十二指腸潰瘍穿孔では半分以上の症例で保存的治療が可能である。最初は心窩部に板状硬が見られても時間と共に改善していき、圧痛部位が心窩部もしくは右上腹部のみに限局してくるもの。鎮痛剤使用の必要性が最初のみで、その後はあまり要らないもの。腹水が全く無いか、モリソン窩に小量のみ存在し、増量傾向がないものなどが保存的治療の候補として経過を観察できる。腹水がある程度あり、治療方針を迷うようであれば、ガストログラフィンにて胃十二指腸透視を行い、造影剤の漏出があるかどうかを確認し、広範な造影剤の漏出が有れば手術を行い、限局した軽度のものかもしくは無ければ保存的に加療できる。最初から腹水が多量に貯留しているものは保存的治療の対象とはならない.

  穿孔の原因として、風邪薬や鎮痛剤などの薬剤による外因性のものや、一時的なストレスによる急性十二指腸潰瘍で、今まで潰瘍の既往の無い人の場合には出来るだけ保存的治療を行うよう心掛けたほうがよい。保存的治療の場合は経鼻胃管留置・抗生剤静注・ガスター静注・ベッド上安静を行い、腸管麻痺が取れ、排ガスが十分出るようになったら、ガストログラフィンにて穿孔部位の確認を行い,十二指腸潰瘍穿孔であること確認して経鼻胃管を抜去し,安静を解除する.経鼻胃管を抜去したら、水分より始めて食事をゆっくり開始する。発熱・白血球増多の有る間は抗生剤を使用する.発熱が持続するようであると右横隔膜下やモリソン窩・ダグラス窩などに膿瘍を形成している可能性があるため,腹部エコー・腹部CTを施行し,膿瘍が確認できたら腹部エコーガイド下にドレナージを行う.一週間から10日して症状が無くなれば,胃内視鏡を行い、潰瘍の治癒状態を確認後退院させる。穿孔を起こす十二指腸潰瘍のほとんどは球部前壁の幽門輪直後にあるので、内視鏡時に注意しないと見落とす.

  逆に、慢性十二指腸潰瘍の急性憎悪で、今まで何回も潰瘍歴のある人、板状硬が改善しないもの、圧痛部位が心窩部に限局しないで腹部全体に広がってくるもの、腹痛の訴えが強く、鎮痛剤を何回も使用せざるを得ないもの、胃潰瘍の穿孔、腹水の量が多くて増量傾向があるものなどは基本的には手術適応であり、早期の手術を考える。しかし、胃潰瘍の穿孔でも潰瘍が小さく、腹水がほとんど無いものは十二指腸潰瘍と同じように保存的に加療できることもある。胃潰瘍の穿孔による保存症例では早期に内視鏡を行い,組織検査をしておくことが必要である.胃癌の穿孔がかなりの確率で混在している.

  急性の十二指腸潰瘍でやむを得ず手術する場合でも、十二指腸の変形があまり無いような急性潰瘍の症例や高齢者の場合には、穿孔部閉鎖・大網充填で十分であるが、慢性潰瘍の急性増悪であり,十二指腸の変形が強くて幽門狭窄を来たしていたり、胃潰瘍穿孔の場合には原則として広範胃切を行う.


絞扼性イレウス

  絞扼性イレウスでは臨床症状エコーの所見とが一番大切である。鎮痛剤ではあまり効果が無く、持続する腹痛を訴えることが特長である。限局した強い圧痛部位・デファンスがあり、腹部エコーでそこに一致して内容物の移動が無い拡張した腸管かもしくは腸管壁肥厚を認める。進行すると腹部エコー上、腸管内容物は全く動かず、二層に解離してくる。また腹水も増量してくる。アシドーシスの進行、GOT・LDH・CPKなど筋原性酵素の上昇は腸管壊死を示すが、壊死腸管が根元で絞扼されているため血清酵素が血中に流入せず、壊死が進行しても上昇しないほうが多い。血性腹水が増加するとそれが吸収されて、CPKなどの上昇が見られる。早期に診断を付けて開腹するとバンド切除・癒着剥離のみで済むため、早期の診断・手術が必要である。穿刺できる腹水があれば必ず腹腔穿刺を行い、腹水の性状を調べ、血性であれば絞扼性イレウスと考え、開腹する。しかし血性で無くとも絞扼性イレウスの否定は出来ない。

  発症初期には腹痛の訴えが強い割には理学所見やエコーの所見に乏しく、ヒステリーではないかなどと考えられることがある。しかし所見が揃うころには壊死も完成してしまっているため、手術歴のある患者が強い腹痛を訴えてきたときには、まず紘扼性イレウスを疑ってかかる必要がある。また手術歴の無い人でも大網の欠損部や子宮広間膜の欠損部などに小腸が入り込んで絞扼性イレウスを起こすことがあるため、持続する腹痛・腹部エコーにて拡張して動きがない腸管(内容が無いか,二層化を示す)・血性腹水があれば絞扼性イレウスを疑って試験開腹を行ったほうが安全である。


S状結腸軸捻転

  慢性便秘の有る人が、突然の腹痛、腹部膨満で発症する。腹満があるにもかかわらず、腹部エコーにて空気像のみで、腸液の溜まった腸管や腹水があまり見られない。腹単で、横隔膜下まで達する拡張したS状結腸を認める.腹腔内に癒着があったり、そもそものS状結腸が余り大きくないとS状結腸が横隔膜下まで広がらないこともあるから要注意である。確定診断はガストログラフィンによる注腸透視にて行う。直腸上部に腸管が絞り込まれた形のbird beak signace of spade signを見る。

  治療は透視下で注腸透視の所見を見ながら、12番の柔らかい大型のネラトン型直腸チューブに大腸ファイバー用のスライディングチューブを付け、直腸チューブを捩じり込みながら挿入する。最初に使用する直腸チューブは腰の弱い柔らかいものがよい。捻転部の抵抗により直腸チューブが進まなければ、スライディングチューブを捻転部直前まで挿入し、直腸チューブを押し込む。直腸チューブが入りにくければ、あまり無理をせず、18FrのN-Gチューブを挿入する。N-Gチューブにて減圧後なら直腸チューブが挿入できる。チューブが捻転部を通過し、拡張したS状結腸に入ると、貯留しているガスと便が噴出して減圧され、腹痛が消失する。血便が出てくるときはS状結腸がすでに壊死を起こしている可能性が有るため,圧痛が持続すれば緊急開腹の可能性も有る.ガストログラフィンによる注腸透視も最初からネラトン型の直腸チューブにて行うと、チューブを交換する手間が省ける。

 大腸ファイバーを使用する場合には、大腸ファイバーを捻転部を直視しながら拡張部まで入れて減圧・捻転解除を行い、その後に直腸チューブを挿入する。直腸チューブは捻転が解除されるまで4、5日間は挿入しておく。捻転が解除されると排便がチューブの横から有るのでわかる。直腸チューブの留置により早期の再捻転も防止できる。

  良性疾患ではあるが、基本的には再発性であるため、初回の入院でも手術適応であり、手術を勧めたほうがよいし、再発すれば強力に手術を勧める。

盲腸軸捻転

(盲腸軸捻転画像1)(盲腸軸捻転画像2)

  腹痛・腹満にて発症し,腸閉塞の診断で紹介されることが多い.早期であれば腹部エコーではガス像のみで所見が得られない.進行すると小腸も拡張し,イレウス様になってくる.臥位の胸写・腹単で右上腹部から側腹部にかけて巨大な結腸(盲腸)のガス像を見る.ガストログラフィンによる注腸透視で横行結腸半ばで閉塞の所見を得ることが出来る.腹部CTにより盲腸から上行結腸にかけて著明に拡張しているのを確認することも診断の役に立つ.

  治療としては,診断が付けば,または疑いが強ければすぐに開腹する.老人であることが多く,手術も簡単に済むため,腰麻を心窩部まで効かせれば十分だと思われる.原因としては移動盲腸があり,盲腸の圧は小腸に逃げ,壊死を起こしていることはまず無いため,盲腸から上行結腸にかけて後腹膜に数針固定すれば十分だと思われる.腸管内ガスは肛門から用手的に押し出せば減圧できる(そのためにも体位は砕石位を取っておく).


腹部大動脈瘤破裂

  動脈瘤も直径が5cmを越すと破裂の可能性がでてくる.最初は単なる原因不明の腹痛・腰痛として紹介されることが多い。腹部エコーにて必ず大動脈をチェックする癖をつけておけば見逃すことはないが、痛みの訴えが強いわりには腹部の理学所見が弱いため、たいした事はないと考えてしまい、ショックになってから慌ててしまうことがある。原因不明の腹痛・腰痛があり、腹部エコーにて動脈瘤があれば、全例、腹部造影CTを撮っておく。腹痛(腰痛)・出血性ショックがあり、腹部エコーにて拡張した動脈瘤(アテロームの部分も動脈瘤!)・動脈瘤に続く後腹膜血腫・動脈瘤から染み出た血性腹水を認めれば、診断は確実である。すぐに腹部造影CTを撮る。確定診断・質的診断は造影CTで行い、動脈瘤周囲の後腹膜血腫・造影剤の漏出を確認して緊急手術を行う。

  ショック状態がひどければCTを撮っている暇はないため、すぐに手術の準備を行い、未交差でも良いから輸血を開始し、新鮮血を10本位用意し、Cell Saverの用意をして手術を開始する.現在はpre-clottingの必要がないZero-porosityの人工血管が開発されているため,Y字グラフトとしてはそれを用意しておく.下腸間膜動脈は出来るだけ再建をするよう心掛ける(体循環の60%以下の圧のback flowであれば再建したほうが良い).

  総腸骨動脈瘤の破裂を時折見かけるが,腹部エコーにて総腸骨動脈まできちんと診る訓練をしておけば見逃すことはない.手術ではやはりY字グラフトを要することが多い.


上腸間膜動脈塞栓症

  心房細動の有る人が、持続性の激烈で鎮痛剤が無効な腹痛を訴え、本人の訴えの割には腹部所見に乏しければ、まず上腸間膜動脈塞栓症を疑わなければならない。腸蠕動が残っていると下血を起こすこともある。すぐに上腸間膜動脈造影を行って診断を確定し、開腹しなければならない。開腹が早くて腸壊死を起こす前であれば、塞栓除去だけですむ場合もある。診断として腹部CTにて上腸間膜動脈内の塞栓が確認される場合もあるし,血流の無い腸管が描出される場合もある.

  腸管の虚血は24時間が不可逆性の変化を起こす限度とされている。腸壊死が進行すると筋原性の虚血性酵素(GOT,CPK,LDH)が上昇し、アシドーシスが進行して、腹膜刺激症状が出現して徐々に強くなり、腹部エコーにても血性腹水の出現を見るようになるが、そのときにはもう腸は壊死しており、患者はショック状態となっている。また腸壊死が進行すると腹部エコー・腹部CTにて門脈内ガス像を見ることもある。いかに早く、腸壊死を起こす前に上腸間膜動脈塞栓症の可能性を考え、血管造影を行うかがポイントである。患者には心房細動があるため脳梗塞や下肢塞栓症などの既往があることが多い。

  まれであるが心房細動が無くとも発症することがあるので、自覚症状としての腹痛が強い割には腹部の所見が乏しく、腹部エコーにても特に所見がなく、デレッとした小腸しか見られない場合には上腸間膜動脈塞栓症も考慮にいれて、注意深い経過観察が必要であり、必要であれば除外診断のための緊急血管造影を行う。

  開腹時に全く壊死した腸管は切除せざるを得ないが,viabilityが不明の腸管があれば,出来るだけFogartyカテーテルによる塞栓除去を行い,小腸瘻・結腸瘻を作り(イレウスバッグを付ける),後日再吻合を考慮したほうが良い.


無石胆嚢炎

  胃切術後(特に胃癌術後)、重度外傷や急性膵炎などで長期の絶飲食を余儀なくされた症例に起こる。原因は胆汁うっ滞による胆汁の粘調度増加により胆嚢管が閉塞を来たしてくるためである。右上腹部痛で発症し、腹部エコーにて胆嚢内に輝度の高いキラキラした胆汁エコーを認める。進行すると炎症を起こして胆嚢炎となり、発熱を起こし,胆嚢壁が肥厚してくる。早目にPTGBDを行う。抗生剤使用よりもドレナージが基本である。ドレナージを行ってから数日後、正常な胆汁がチューブより流出するようになってからPTGBDのチューブから造影を行い、造影剤の総胆管内への流出が良好であればチューブを2、3日クランプ後、発熱や腹痛が再発しないことを確認して抜去する。胆嚢管の造影剤の通過が悪く、クランプすると胆嚢が緊満し、再び胆嚢炎症状を呈してくるものは、無石胆嚢炎でも手術の適応となる。

  術後の無石胆嚢炎は,術中に胆嚢を圧迫して胆汁を押しだすことにより,胆嚢の減圧を行い,かつ胆嚢管の通過を良くして,その発生を押さえることが出来るため,術中に必ず行う習慣を付けておくとよい.

胆石・胆嚢炎

  胆石胆嚢炎は痛みが右季肋部であるし、腹部エコーにて腫大した胆嚢と胆石を見ることが出来るため診断は付けやすい。しかし中には胆嚢が肋弓下の奥に有ったりして、腹痛の訴えが余り無く、発熱と麻痺性イレウスによる腹満を主訴に来院する症例がいるため要注意である.その場合も腹部CTにて診断がつけられることが多い.絶食・抗生剤投与(CPZなど胆汁排泄性のもの)で収まることが多いが、発熱・腹痛が持続するようであれば早めにPTGBDを行う。胆嚢破裂による胆汁性腹膜炎の予後は悪い

総胆管結石による逆行性胆管炎

  心窩部痛の訴えで来院することが多いため、不定の心窩部痛の患者の場合、単に急性胃炎や胃潰瘍と診断を付けずに、腹部エコーによる胆嚢・総胆管の大きさのチェックとT.Biril・GOT・GPTのチェックを怠ってはならない。軽度の黄疸は肉眼的には判らないものである。すぐに絶食・抗生剤投与(CPZなど胆汁排泄性のもの)を行う。黄疸の推移と発熱などの臨床症状を見極め、必要有れば早めにPTCDもしくはENBDを行う。怖いのはAOSC(急性閉塞性化膿性胆管炎)であり、ショックを伴うため、早急なるドレナージを必要とする。

  胆管炎の精査のため,症状が落ち着き,GOT・GPTが低下したら,必ずERCPを行う.DICは確定診断能力に乏しいし,処置には繋がらないため,原則としてERCPをfirst choiceで行う.ERCPにて総胆管結石があり,胆摘後で,ビリルビン系石が疑われれば,ESTを行い,バスケットカテーテルによる結石除去を試みる.結石除去が出来なければ,開腹しての総胆管切開・総胆管切石を行い,総胆管-十二指腸側々吻合を行う.胆石があり,コレステロール系石が疑われれば,開腹による胆摘・経胆嚢管的総胆管切石術を行う.

急性膵炎

  原因としては胆石膵炎アルコール膵炎特発性膵炎が三分の一ずつを占める.高脂血症が原因で起こることも有る.胆石膵炎の場合には必ずGOT・GPTが上昇するため(黄疸はまだ上がってないことが多い),診断が付くし,アルコール膵炎の場合には飲酒歴で診断が付くが,膵炎を起こすほどの大酒家の飲酒量は申告した量の三倍量と考えてだいたい間違いない.

  心窩部痛で発症する。腹部エコーにて膵腫大膵周囲の浮腫を認める.腹部CTまで必ず撮っておく.通常の軽度の浮腫性膵炎であれば、腹水や後腹膜浮腫が余りたいしたことないので、絶飲食、抗生剤投与、ガスター投与、ミラクリッド投与(15万/日)・フサン(20mg=2A/日) or FOY(300mg=3A/日)投与にて炎症は収まる。注意すべきは急性壊死性出血性膵炎で、後腹膜浮腫や腹水が急激に増加し、脱水となり、腎不全になりやすい。腹水を伴いショックがある急性膵炎はICU管理をしたほうが安全である。腹水が増加してくれば腹腔内ドレナージを行い、腹膜潅流も行う.後腹膜浮腫が増大すれば、嚢胞化もしくは膿瘍化するのを待ってドレナージを行う。


結腸垂捻転

  まれな疾患として結腸垂捻転がある。大腸・結腸に付着する結腸垂が捻転を起こし、壊死するため、腹痛を生じる。腹部エコーではほとんど所見は無いが、捻転した結腸垂が大きければlow echoic massとして見られる場合もあり、血性腹水が出てくる場合もある。注腸透視では捻転を起こしている結腸に攣縮を認めるが、狭窄等は出現しない。開腹時に時折、遊離した1cm大の脂肪の固まりを見ることがあり、腹膜ネズミと称しているが、これは結腸垂捻転の脱落したものである。腸管麻痺がある間は絶食で経過を観察し、その後徐々に食事を開始すればよい。

胃アニサキス症

  胃アニサキス症はサバ(しめサバを含む)やシビなどを生食したのち,4〜5時間してから心窩部痛で発症する.夜中に受診することが多いが,夜中に慌てて緊急内視鏡を行う必要はない.食物残渣だらけでかえって正確な観察ができない.心窩部痛の原因は虫頭が胃粘膜内に潜り込むことにより生じるアレルギー反応であるため,鎮痛剤としてはブスコパン等は使用せず,ソセゴンを使用したほうがよい.鎮痛剤を使用しながら朝まで待ち,通常の内視鏡検査に組み入れる.その方が胃内の食物残渣が無くなり,観察しやすい.

  大抵の場合には胃体中部から下部にかけての大弯側の皺壁が肥厚しており,その部分に白くとぐろをまいてうごめいている虫体が観察される.生検鉗子にて千切れないように柔らかくつまみゆっくり引き出す.アニサキスは一匹とは限らないため,胃内をくまなく観察する必要が有る.アニサキスを摘出さえすれば症状は消失するため,入院の必要はなく,急性胃炎に準じた治療を行う.

閉塞性腸炎

(注腸透視所見)(開腹所見)(切除標本)

  閉塞性腸炎は大腸の閉塞性病変の口側に見られる潰瘍形成性の非特異性大腸炎とされており,その発症に関しては腸管内圧上昇に伴う血流障害腸管壁平滑筋の痙攣性収縮腸管内の細菌増殖などの因子が上げられているが,現在のところ単一で説明できる病因は判明していない.大腸癌の1%前後,閉塞を伴う大腸癌の約6%に発生するといわれており,また便秘や良性狭窄に伴って起こることもある.潰瘍・壊死形成の範囲が閉塞部位の上部だけにとどまる場合もあるが,潰瘍・壊死が回盲弁を越えて小腸まで進展する劇症型のことがあり,その時には重篤なショック状態を呈する.腹痛で来院した患者に腹水があり,血圧が低くてショック状態であり,注腸透視で大腸癌による閉塞詰まった便塊の所見が有ったら,閉塞性腸炎の可能性を考えて早急なる試験開腹を要する.手術は壊死小腸大腸の切除と小腸人工肛門造設を行う.


4.鑑別を要する泌尿器科疾患

尿管結石

  いわゆる転げ回る痛みを生じる。身の置き所のない疼痛があり、体を動かしていると痛みが少しでも紛らわされるため、転げ回るのである。これとは反対に、炎症性の疼痛の場合には体を動かすと炎症部位がゆられて痛みが増強するため、じっとしているのが特長である。典型的な尿管結石は急激な側腹部痛で始まり、下腹部に放散し、尿管-膀胱移行部に嵌頓している場合には睾丸などに痛みが放散する。また尿管-膀胱移行部に嵌頓しているときには膀胱刺激症状を伴い、頻尿・残尿感を起こしてくる。大抵の場合に尿潜血・血尿が陽性であるが、完全嵌頓の場合には陰性になることもあり、尿潜血・血尿が陰性であることが必ずしも尿管結石を否定することにはならない。腹部エコーにて腎盂の拡張を確認するか、膀胱の尿管口に結石エコーを認める。確定診断はDIPにて患側腎の造影不良を確認することで得られる。エコーにても発症早期であれば腎盂の拡張がほとんど見られないことがあるため、DIPにて確定診断・除外診断をつけるようにしておく。

  尿管結石による仙痛発作であることがわかれば十分量の鎮痛剤・鎮痙剤を使用する。結石の刺激により尿管攣縮が起き、さらに痛みが起こるという悪循環をどこかで断ってやらなければならない。痛みが強いときは、鎮痛剤・鎮痙剤としてソセゴン30mg・ブスコパン1Aを静注にて使用する。

  DIP療法

  外来の腹部エコーにて患側の水腎症があれば,DIP療法を開始する.まずラクテック・リンゲル液にて点滴ラインを確保し,点滴を全開で落としながらDIPを開始する.10分後のDIPで患側の尿管の造影が不良であれば,その時点でソセゴン30mg・ブスコパン1Aを静注にて使用する.その後は20分後・30分後および排尿後立位にて撮影を行う.点滴と造影剤で上の方から圧を掛け,その時点で尿管攣縮が取れれば排石が起きる可能性が強いからである。
  結石も6×10mm以下であれば排石される可能性が強いため保存的に加療し、それ以上の大きさであれば自然排石の可能性は少ないため、結石破砕術の適応となる。

  排石がなくとも痛みが取れれば、翌日に泌尿器科を受診するように指導して外来にて帰宅させてもよい。その時はブスコパン6T/3・ウロカルン6T/3を持ち帰らせる。

副睾丸炎・精索炎

  下腹部痛で発症することがある。尿道からの感染であるが、高熱を生じることがある。精索は腹腔内に延びており、下腹部に圧痛を生じる。患者は恥ずかしがって睾丸痛はなかなか言わないものである。右下腹部痛を訴えて来院し、睾丸の痛みを訴えないか、もしくは医者の方で訴えを軽視し、虫垂炎と考えて手術の準備を行い、手術台の上で、初めて睾丸が腫れているのに気づき、手術中止になることもある。精索に沿って圧痛があり、副睾丸にも圧痛があることで診断される。治療は簡単で、軽ければ経口抗生剤のみで改善するが、高熱があれば入院させて抗生剤を静注で使わなければならない。


5.鑑別を要する婦人科疾患

骨盤内腹膜炎(卵管-卵巣炎)(Pelvic Inflammatory Disease-PID)

  典型的な若い人の初発の場合には、生理中のSexがあり、生理が終わった後も感染性の帯下(量が多い、黄色い色が付いている、臭いがする)があり、そのうち下腹部痛・発熱にて発症してくる。消化器症状はほとんど伴わない。消化器症状をあまり伴わない下腹部痛・発熱の女性を見たら必ず帯下の異常の有無を聞き、異常があれば生理中のSexの有無を聞かなければならない。しかし何回もPIDを繰り返し、慢性化している人は必ずしも上記の経過を辿らない。帯下もなく、下腹部痛のみで発症してくることもあるので注意を要する。こういうときは卵管狭窄による卵管蓄膿を伴うこともある.卵管蓄膿(卵管留膿腫)を起こしており,発熱が改善しなければ開腹してのドレナージを要することもある.(概してPIDを起こす人は髪を染めていたり、年の割にくずれた服装や厚めの化粧をしており、生活が不規則であるため、肌が荒れていることが多い。これをPID顔貌という。)治療はさしあたりは抗生剤投与のみであるため、夜間の来院の場合には、とりあえず入院させて抗生剤を使用し、婦人科へは翌朝コンサルトすればよい.

(Peri-hepatitis syndrome-肝臓周囲炎Fitz-Hugh-Curtis syndrome)

  PIDの特殊形として、PIDの膿が右上腹部に流れ込んで肝表面に集まり、右上腹部痛で発症することがある。PIDと同じように、炎症性帯下の病歴があり、PIDを中途半端に治療したときや無治療のときに起こりやすい。女性が、原因不明の右上腹部痛で発症し、肝胆膵系統に異常無く、感染性帯下の病歴があれば、まずこの疾患を疑ってみる。治療はPIDに準じ、坑生剤投与で治癒する。上腹部の開腹時に肝表面の横隔膜への線維性癒着を認めることがあるが、こういった炎症が原因になっている可能性があると思われる。

子宮外妊娠

  女性の下腹部痛で必ず問診しなければならないことに最後の生理がある.その生理の時期・期間・性状などが通常の生理と違ったところがなかったかどうか聞かなければならない。本人が最後の生理と思っているものが子宮外妊娠時の不正子宮出血であることがある。子宮外妊娠時の不正子宮出血は詳しく聞くと、期間や性状が通常の生理とは少し異なっているものである。腹部エコーにて多くの症例がダグラス窩の腹水を証明できる。また子宮外妊娠を疑ったら50Uのニューゴナテストを必ず行う。陽性であればまずは妊娠しているし、陰性であれば否定できる。女性への質問で「妊娠の可能性はありますか?」という聞き方はナンセンスである.「過去2〜3カ月の間にsexをしたことがありますか?」という質問を他の家人がいないところで聞き,経験があれば妊娠の可能性があるものとして妊娠反応を調べる必要がある.

卵巣出血

 黄体出血---予定月経1週間前に、排卵後の黄体嚢胞が破裂して腹腔内出血を来たす。

 卵胞出血---排卵時に卵胞から出血することがある。これは月経周期の中間期に起こるので中間痛と呼ばれている。

  卵巣からの出血が持続すれば腹痛が継続し、ショック状態となる。腹部エコーにてダグラス窩に液体貯留を証明できる。出血が増量し、止血のための開腹術を余儀なくされることもある,子宮外妊娠が否定できれば出来るだけ保存的に加療する.一般に子宮外妊娠・卵巣出血でも白血球増加を伴うが、発熱は伴わない。

卵巣嚢腫茎捻転

  腹部エコーにて圧痛部位に一致して緊満した卵巣嚢腫を証明できる。茎捻転を起こす卵巣嚢腫は直径が3cm以上はあり、卵巣内容はecho-lucentで、緊満している。突然の下腹部痛で発症する。デルモイドシストが茎捻転を起こしてくる場合には腹単にて石灰化した歯牙などが写るし、卵巣内容は高エコー・低エコーの混在を示す。卵巣腫瘍の茎捻転のことも有るため,術前に腹部CTは必ず施行する.早めに手術すれば核出術のみで卵巣を残せる可能性も有るため,手術を急ぐ

チョコレート嚢腫破裂

  突然の下腹部痛にて発症し、腹部エコーにてダグラス窩に腹水およびチョコレート嚢腫を証明できる。チョコレート嚢腫は茎捻転と違い、すでに破れているせいもあるが、緊満感に乏しく、径も5cm以下で、内部エコーを伴うことが多い。腹水も少しhigh echoicである。子宮内膜症の一部であり、通常は月経困難症・生理痛を伴うが、必ずしも伴わないことがある。現在は保存的治療が主流であり、すぐには開腹しない。

生理血液の逆流

  生理の開始時前後に腹痛を訴え、軽度の腹水貯留が見られることがある。生理血液の子宮から卵管を通っての逆流である。最初の痛みが一番強く、ダグラス窩に液体貯留を認めるが、後は徐々に改善し、消化器症状や、白血球増多を伴わない。

卵巣過剰刺激症候群(Ovarian Hyperstimulation Syndrome:OHSS)

  不妊治療時排卵誘発剤(hMG)を使用することによる過排卵刺激にて起こる.腹部膨満を訴え,腹水貯留を伴う.超音波では,卵巣はmulticysticで,一見腫瘍と思われる程の卵巣腫大を来す.重症の場合には,腹痛・脱水症状・胸水を伴い,血液凝固系の異常まで起こすことがあるし,腫大した卵巣が茎捻転をおこすこともある.不妊治療を受けている患者であれば,先ずOHSSの可能性を疑わなければならない.治療法としては腹水が貯留していれば,入院して安静と補液,さらには蛋白補給まで考えなければならないことがある.

子宮溜膿腫穿孔

  まず子宮溜膿腫(Pyometra)とは子宮頚管の狭窄・閉塞を原因として子宮内の分泌物の排出障害をきたし,これに細菌感染を生じ,子宮腔内に膿や壊死組織が貯留する疾患である.閉経後婦人に発症が多い.症状として発熱,膿性帯下,下腹部痛などがあるが,高齢者では特徴的な症状を示さず,子宮内圧上昇により子宮壁に穿孔を生じ,汎発性腹膜炎を起こして初めて気付かれることがある.

  子宮口よりの悪臭ある膿性帯下を認め,穿孔前では腹部エコーにて子宮内膜の肥厚とその内部のlow echoic spaceを認めるが,穿孔後では内部エコーが消失し,診断が困難である.診断が付けば開腹し,子宮および両側付属器摘出を行う.高齢者の場合には腹膜炎の所見に乏しく,ショックにて気付かれ,術後に集中治療を要することもある.


6.鑑別を要するその他の疾患

胸膜炎

  下部の胸膜炎が胸部症状を伴わず、急性腹症として発症することがある。上腹部痛として発症し、上腹部に筋性防御があり、腹部エコーにて軽度の腸管麻痺を認める場合、急性膵炎や消化管穿孔が否定出来たら、胸膜炎の可能性を考える。胸写にて下肺野に軽度の胸水の所見があれば、胸膜炎と考えてよい。上腹部CTを撮って、胸膜炎・胸水の所見があり、急性膵炎などの腹腔内の異常が否定出来たら、胸膜炎に対する治療(抗生剤投与など)を行う。

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