消化管出血プロトコール

救急治療室


目次

  1. 来院時
  2. 上部消化管出血患者の内視鏡の見方
  3. エタノール局注の適応
  4. エタノール局注のコツ
  5. クリップ止血
  6. 特殊な出血
  7. 硬化療法
  8. 出血源不明の時
  9. 下部消化管出血


1.来院時

  吐下血の患者が来院したら、まず末梢より点滴を確保し、採血を20ml・交差分まで含めて行う。出血性のショック状態であれば末梢を二本確保するか、14Frの中心静脈ラインを入れる。HB・HC・Wa氏などの感染症の検査も原則として来院時に行う。

  内視鏡の検査は通常は外来にて胃洗浄後すぐに行うが、ショック患者の場合には、ショック状態がある程度改善されてから行ったほうが良く、出来れば輸血を始めてからの方がよい。しかし新鮮血の流出がどんどん有り、血圧が上がらないようであれば、集中治療室に入れ、点滴を全開で落とすか、もしくは未交差でもよいから輸血を行いながら素早く内視鏡を行う。交差はHctが30前後であれば必要なく、Hctが20前後であればMAP-10単位(5本)・FFP-10単位の交差を来院時に行い、出血の状況を見ながら輸血を始めるが、原則として若年者の場合には補液にて血圧が維持できるようであれば輸血はしないほうがよい。

 胃洗浄

  吐下血の症例は全例、来院時に冷生食にて胃洗浄を行い、胃内血液の有無を調べ、血液があればその性状・量をチェックし、出来るだけ綺麗になるまで洗浄して内視鏡検査に備える。
  冷生食を使用するのは血管収縮を期待してのことであるが,これに対して冷生食は血小板の活性を阻害し,血栓形成を阻害するため,常温もしくは温生食を使用すべきだとの意見もある.いずれの理屈も正しいが,いずれも臨床的には証明されていないため,どちらを選択しても良いと思われる.

 新鮮血流出があれば、時間にかかわらず、緊急内視鏡を行う。
 コーヒー残渣の時は、
  日勤帯であれば、緊急内視鏡を行なう。  
  当直帯ではケースバイケースだが、準夜帯で人がそろっていれば内視鏡を行い、深夜帯では原則として行わず、翌朝に行う。

 内視鏡時のチェック

  全身状態の悪い人で、内視鏡を行うときに一番注意すべきは意識レベルのチェックと、呼吸状態のチェックおよび誤嚥のチェックである。食道内に血液が満ちてくれば、マウスピースを付けていると、血液を誤嚥しても痰の喀出が出来ない。歯の無い人は最初からマウスピースを外して内視鏡を行ってもよいし、歯のある人でも、内視鏡を噛まれないように気を付けながら,マウスピースを外して口腔内に溜まっている血液を喀出させる。内視鏡中は絶えず呼びかけを行い、意識レベルが正常であることを確認しながら行う。内視鏡中に血圧が低下し、意識レベルが落ちたり、誤嚥を起こしたりすれば、すぐに内視鏡を引き抜き、場合によっては挿管して気道確保を行って集中治療室に入れ、全身状態を改善させてから、必要であれば再度内視鏡を行う。長く内視鏡を行っていると、心停止まで来たしたり、不整脈を誘発したりすることがあるため注意が必要である。特に虚血性心疾患の既往のある人には注意して素早く内視鏡を行う。出血量が多く、内視鏡的に止血が困難と判断したら、早めの開腹術を考慮したほうが安全な場合もある。

 体位変換時の注意

  内視鏡を胃内に挿入しながら出血源を捜して体位変換を行うときは、内視鏡はまっすぐにして、ロックを外し、食道まで引き抜いておく。体位変換時に内視鏡を反転したままにしておくと、胃壁を突き破ることがあるからである。

2.上部消化管出血患者の内視鏡の見方

  胃十二指腸の潰瘍出血が疑われるときの内視鏡は、直視・細径のものを用いる。挿入時に食道静脈瘤・マロリーワイス症候群・逆流性食道炎がないかどうかをチェックする。胃内はあまり空気を入れないようにして通過し、まず十二指腸の深いところまで観察する。球部の観察は挿入時に十分行う。球部後壁は見逃しやすいため注意する.十二指腸に病変がなかったら幽門前庭部を観察し、そのまま胃内で反転させて胃角部・胃体部・穹隆部の観察を行う。胃内の出血部位として一番多い所は胃角上部から胃体上部にかけての小弯側後壁よりである。噴門部大弯側からの出血が疑われるときには、右側臥位に体位を変換し、観察する。十二指腸潰瘍出血で後壁からの出血であり、直視鏡で穿刺不能の時は側視か斜視の内視鏡を使用する。

  肝硬変の既往があり、食道胃静脈瘤からの出血が疑われるときには、最初から直視・大径の内視鏡に圧迫バルーンを装着し、透視室にて内視鏡を行う。まず食道下部・接合部の観察を行い、次いで胃内で反転させての接合部周囲・穹窿部の観察を丹念に行い、食道胃静脈瘤上の出血点(赤色血栓・白色血栓)を探す。

3.エタノール局注の適応

  胃十二指腸潰瘍・胃癌・マロリー=ワイスからの出血で拍動性の動脈性出血か、新鮮凝血塊を被った露出血管突出した新鮮露出血管があれば必ず純エタノール局注を行って、露出血管を潰しておく。凝血塊が多くて露出血管が確認できないときや血餅が付着しているときは洗浄して洗い流すか、洗浄チューブや穿刺針を用いての物理的除去もしくは内視鏡を用いての吸引(これが一番効果的)により出来るだけ露出血管を探す。それでも凝血塊が除去できなければ、血塊中へエタノールを注入し、凝血塊を固めて露出血管を探してもよい。一旦止っている様に見えても、はっきりした露出血管であれば、約3割の症例で再出血があるため、エタノール局注にて潰しておくのを原則とする。この方針でエタノール局注を開始して以来,病棟における再出血はほとんど無くなった.

  エタノール局注したあとに、微出血が持続するか、再出血の恐れがあればN-Gチューブを挿入し、それより出血の程度を見ながら、マーロックス・アルロイドG20〜30mlずつ2〜3時間おきに注入する。再出血を余り考えなくてよければ、N-Gチューブは挿入せず、経口でマーロックス・アルロイドGを4〜6時間おきに飲ませる。

  研修医の教育では通常の潰瘍出血に対してはエタノール局注のみを教えればよいと考えている.その理由は
 1.エタノール局注は穿刺針と純エタノールさえあればどんな施設でもどんな田舎でも施行できる.当直に行くとき,または田舎の病院に赴任するとき,穿刺針純エタノールを詰めた小瓶を持っていさえすれば,急な消化管出血にいつでも対処できる.
 2.ヒートローブ法やHSE法の方が手技的にも容易であるが,ヒートローブ法の施行のためには100万円程度の器材が必要であり,田舎の病院では常備しがたい.またHSE法は手技的には容易であるが,露出血管を確実に潰す効果はなく,Dieulafoy潰瘍のごとき血管病変に対しての止血効果が弱い.
  以上の理由により研修医に対してはエタノール局注の手技のみを徹底して教えればよいと考えている.

4.エタノール局注のコツ

  胃十二指腸潰瘍・Dieulafoy潰瘍・胃癌などの露出血管に対する純エタノール局注は、内視鏡の先端を出来るだけ潰瘍底に近付け、露出血管根部に対し30〜60度の斜方向から行う。内視鏡の先端を出来るだけ露出血管に近付け、7時の方向から出る穿刺針は先端の針先のみが見える位置に置き、そこから勢い良く穿刺針を露出血管の根部周辺に突き刺す。ゆっくり刺すと穿刺針で潰瘍底を押す形になり、視野が遠くなるし、潰瘍底に十分穿刺できない。針をそのままにし、次に穿刺するところの方向に内視鏡を上下左右に少し動かし、穿刺針を抜いたらすぐ近傍に刺し直し、連続的な穿刺-エタノール局注を行う。出血が止っているときは周囲の潰瘍底の少し周囲より血管の根部を目掛けてエタノール局注を行う。活動性の出血があるときは血管根部に直接注入する。一回で0.1〜0.2mlの純エタノールを局注する。針を抜くときに穿刺孔より出血があれば血管を直接穿刺しているため、そこでエタノール局注0.1mlを追加し、針を引っ込めて外筒にて1〜2分圧迫し、さらに0.1ml追加して針を引っ込め外套にてしばらく圧迫した後に外套をゆっくり抜去する。局注は露出血管が蛋白変性して白色に変色し、新鮮血の色が全く消失するまで行う。エタノール局注のエタノールの使用量は特に気にする必要はない.使用量が多い人などは5〜6ccに達することもある.当院でも5〜600人のエタノール局注を行っているが,穿孔例は一例もない.これはエタノール局注によって起こる変化が蛋白変成であるためであろうと考えられる.

  胃体上部の露出血管に対しての反転しての接線方向でのエタノール局注は初心者には困難に感じられる.しかし内視鏡を露出血管に近づけ,少し内視鏡を引き上げてdownをかけると有る程度の角度をもって露出血管を直視できる.その時点で穿刺針を刺すと露出血管根部・潰瘍底にしっかり刺すことが出来る.

  全身状態が悪い人の再出血に対しては、止血できる自信があれば、再度局注を試みてもよいが、それでも止血しがたいものには早めに手術を考慮したほうがよい。しかし,下記に述べるクリップ止血を併用するようになって止血できない症例は事実上ほとんどなくなった.手術は全身状態がよければ胃切を行うが、全身状態が悪ければ胃切開して露出血管を非吸収糸のZ縫合にて縫合止血し、潰瘍底を吸収糸にて縫縮するか、胃部分切除を行えば良い。胃部分切除には潰瘍部分を持ち上げ、TA50・TA90もしくはGIAにて潰瘍を含んで部分切除を行うと簡単である。広範胃切を行うかどうかは全身状態改善後に再考する。


5.クリップ止血

  最近はどこの施設でも,マーキング用・止血用のクリップが普及してきているため,エタノール局注にて止血しがたい出血に対してはクリップ止血を考慮してもよいと思われる.

  適応

  エタノール局注にて止血しがたい根部の大きな露出血管や平滑筋腫や悪性リンパ腫などの粘膜下腫瘍からの出血が適応と思われる.

  手技

  露出血管の根部に止血用のクリップを二,三本かけるだけで止血できることが多いが,慢性潰瘍の硬い潰瘍底などにはクリップは掛かりづらい.また胃体上部の接線方向の潰瘍底に対してもクリップは掛かりづらい.クリップを掛けてもなお周囲から出血が持続する場合には再度エタノール局注を行う必要がある.
  ただクリップ止血の永続性やその効果に対する評価はまだ確定してはいない.


6.特殊な出血

 マロリー=ワイス症候群

  ほとんど既往として吐血直前の飲酒歴・嘔吐歴を持ち、最初の吐物は食物であったものが次第に新鮮血が混じるようになり、最後には全くの純血性となるが、時間が経つとコーヒー残渣となる。新鮮血の吐血であっても来院時に貧血はなく、BUNも正常で、全身状態は概して良好である。出血の度合いが動脈性・拍動性の出血であればエタノール局注を行う。マロリー=ワイス症候群の患者の約1割にエタノール局注が必要である。静脈性の微出血であれば自然止血するため、エタノール局注は行わず、保存的にマーロックス・アルロイドGの経口投与・ガスターの静注を行い,入院させて様子を見る。明らかなマロリー=ワイス症候群であり、活動性出血もなければ、入院とせず、外来投薬し、通院にしてもよい。

 逆流性食道炎

  老人の吐血の中に逆流性食道炎による出血が多く含まれる.食道裂孔ヘルニアを併発することが多く,何らかの原因で嘔吐したり,寝たきりになった結果として,胃液が逆流しやすい状態になると起こる.治療としては基本的にはガスターなどのH2ブロッカーマーロックス・アルロイドGの投与で改善するが,嘔吐が続くようであれば,腹部エコーにて腸閉塞の有無を調べる必要がある.

 胃粘膜下腫瘤からの出血(平滑筋腫からの出血)

  胃粘膜下腫瘤(そのほとんどが平滑筋腫もしくは悪性リンパ腫)から出血してくる場合にはエタノール局注は無効である.クリップ止血が有効であることがあるため試みてよいと思われる.早めに腹部CT・胃透視等の精査を行い、腫瘍を含む胃部分切除にもっていったほうがよい。

 食道胃静脈瘤からの出血の場合

  食道静脈瘤・接合部静脈瘤からの出血であれば食道静脈瘤より硬化療法を行う。出血部位の手前の近傍からオルダミンによる硬化療法を行えば必ず止血させ得る。食道静脈瘤からの出血は全例硬化療法にて止血し得るため、手術は考える必要はない。接合部静脈瘤・食道静脈瘤に続いた胃静脈瘤からの出血であれば、出血している静脈瘤を上に辿り、上部の静脈瘤より硬化剤を流し込む。確実に静脈瘤内に硬化剤が入ることが必要である。

  胃静脈瘤・穹隆部静脈瘤からの出血で、接合部から離れていれば、ヒストアクリルによる反転しての硬化療法を行う。出血点の近傍にヒストアクリル0.5〜1.0mlを止血するまで繰り返して注入する。必要有れば周囲にオルダミンを注入する.出血が持続したり、再出血を繰り返すようであれば、全身状態が不良となる前に手術(胃上部切断術・脾摘)を考慮したほうがよいが、ヒストアクリル使用にてほとんどの胃静脈瘤は止血できるようになり、緊急手術は回避できるようになった。


7.硬化療法

  in-varix用にエタノールアミンオレイト(商品名オルダミン)、para-varix用にエトキシスクレロール(商品名エトキシスクレロール)、胃静脈瘤用にヒストアクリルがある。予防的硬化療法や出血例には原則としてin-varixのエタノールアミンを用いる.細い静脈瘤からの出血や再発静脈瘤の細いものにはエトキシスクレロールを用いるがとされているが、現在ではほとんど使用していない。胃静脈瘤からの出血にはヒストアクリルを用いる。

  最近,EVLを使用している施設が多く,また学界の発表でもEVLの発表が多くなっているが,局所療法であるため,食道胃静脈瘤をすべて潰すことの出来るオルダミン・ヒストアクリルの治療に比べて再発率・再出血率が高いこと,また緊急止血時でも習熟すればオルダミン・ヒストアクリルにても十分簡単に止血できることなどから私は使用していないし,あまり勧めてもいない.

  通常の太い食道静脈瘤の場合にはエタノールアミン(オルダミン)を用いる。オルダミン10mlと造影剤イオパミロン10mlを混ぜて20mlの注入液を用意しておく。出血している症例ではとにかく、出血部位を確認し、その上部で圧迫バルーンを20〜30ccの空気にて膨らませて(圧迫できると患者さんがすこし痛みを感じる、全く平気であれば、圧迫できていないと考えて注入空気量を増やす)食道静脈瘤の流れを止め、出血部位の1〜2cm上の静脈瘤内から注入すれば、大抵はすぐに止血する。粘膜下注入になっても止血は出来るし,止血できなければ、内視鏡を少し引き抜き、少し上の健常な静脈瘤より刺し直す。止血後改めてその静脈瘤の接合部近傍に刺し直し、静脈瘤全体の硬化を計るようにする。余裕があれば他の太い静脈瘤内にもエタノールアミンを注入するが、静脈瘤の造影がストップしたらそこより硬化剤が門脈本管に流れ込んでいるため、そこで中止する。穿刺部からなどの出血が止まらなければ,ヒストアクリルの注入を試みても良い.ヒストアクリル0.5〜1.0mlを使用すると,完全に止血させえる.

  オルダミン注入液の使用は原則として、一本につき15ml、一回につき40mlを越えないようにするが、太い静脈瘤で、胃静脈瘤まで造影されるのに大量を要するようであれば多少は増やして使用してもよい。注入は透視を見ながら行うが、全然造影されないときにはバルーンによる圧迫が不十分で、静脈瘤の血流が止ってない場合があるため、バルーン内の空気を増量してみる。食道内にシャントがあれば、やはり造影されないことがあるため、バルーンの圧迫部位・穿刺部位を変えて注入してみる。粘膜下注入では粘膜が青く膨らむので分かるし、筋層内注入では静脈瘤表層にはあまり変化が無いものの、透視下で丸く造影剤が貯留するので分かる。筋層内注入では胸痛が生じ、食道潰瘍を形成し,食道破裂の可能性も出てくるため要注意で、すぐに抜去する。血管外注入となったら、2cc前後で中止するようにする。

  出血が止っている症例では、まず食道静脈瘤における赤色血栓・白色血栓を捜し、見つからなかったら、食道胃接合部付近を丹念に捜す。それでもわからなかったら胃内で反転して胃静脈瘤上の出血部位を捜す。出血源が不明な例や予防的硬化療法例では、最初の硬化療法は食道胃接合部近傍で、出来るだけ大きな食道静脈瘤に穿刺して門脈流入部まで硬化療法を行う。効果的に食道静脈瘤内にエタノールアミンが入ったら、圧迫バルーン・穿刺針はそのままとし、約2〜5分間固定し、その後、次の静脈瘤を穿刺する。

 硬化療法の要領

 ・エタノールアミンオレイト(オルダミン)ーin-varix用であるため、いかに静脈瘤内にきちんと注入するかを考える。まず穿刺時には内視鏡に軽度に吸引をかけ、静脈瘤を浮かせる。穿刺針は出来るだけ静脈瘤と平行になるように内視鏡を回転させる。まず膨隆している静脈瘤の膨隆際を狙い、穿刺針を根本まで静脈瘤内に入れて少し引き抜く。これは筋層内注入を防止するためである。そこで針を少し持ち上げて静脈と平行に穿刺針を再度押し込む。点滴確保と同じ要領である。吸引して血液の逆流が見られれば静脈瘤内であり、硬化剤を注入する。注入が浅すぎると粘膜下注入となり表面が青く膨隆し、深すぎると静脈瘤に変化なく、透視で薬液が丸く貯留する。静脈瘤内に注入されると静脈瘤の太さに変化ないものの、全体として青みがかり、透視で蛇行した静脈瘤が造影される。食道から胃静脈瘤が造影され、門脈に流入し始めたらオルダミンの注入を止める。穿刺針をしばらくそのままとし、2〜5分間待つ。血管内皮に接する時間が長ければ長いほど、血栓形成作用が強くなる。

 ・エトキシスクレロール(今はほとんど使用することはないが)ーpara-varix用であり、いかに粘膜下に浅く注入するかがポイントである。狙い目は静脈瘤間の正常粘膜部であり、出来るだけ水平に穿刺針を粘膜下に入れ硬化剤の注入により粘膜が球状に膨らむようにする。膨らまなければ深すぎて筋層内に入っているため、少し引き抜いて注入する。しかし実際のところエトキシスクレロールを使用する適応症例は少ないと思われる。

 ・ヒストアクリルー出血している胃静脈瘤用であり、静脈瘤用の穿刺針にまず生食を満たしておく。2.5mlの注射器に生食を吸っておく。穿刺部位を決めておき、穿刺直前に1mlの注射器にヒストアクリルを0.5ml(1V)と空気0.2mlを吸い、三方割栓の側管に付けておく。出血部位近傍に穿刺針を穿刺後、ヒストアクリルを急速に注入し、すぐに生食を2ml注入する。生食を注入したら穿刺針はすぐに抜去する。ヒストアクリルは注射器に吸ったら3分以内に注入する必要がある。ヒストアクリルが出血部の栓をする形で止血でき、周囲に血栓を形成する。ヒストアクリルは3分間で固まるため,3分以内に使用する.出血が止まらない食道静脈瘤に対する使用も同様の方法で良い.

 硬化療法後の処置

  硬化療法後は原則として圧迫バルーンやN-Gチューブは入れない。当日は水薬と水分のみ経口可とし、嘔吐がなければ翌日から流動食より開始する(一日上がりとする)。グラム陽性球菌を対象とした抗生剤(CTM・CEZなど)を2〜3日間発熱が収まるまで使用する。水薬は当日はマーロックス・アルロイドGを20ml ずつ3時間毎にゆっくり飲ませ、翌日は4時間毎で、3日目より6時間毎とする。ガスターは初日・2日目は静注で使用し、3日目より経口とする。補液も最初の2〜3日間は行う。1週間〜10日後に内視鏡を再検し、残っている静脈瘤があれば硬化療法を追加する。注入した硬化剤が多く、ヘモグロビン尿を来たすようであれば、腎機能が悪化する可能性があるため、十分に補液を行い、緊検にて腎機能のチェックを行う。少しぐらいヘモグロビン尿が出てもハプトグロビンを使用する必要はまず無い。今まで数百回の硬化療法を行い,ヘモグロビンの血尿が出るのは普通であるが,ハプトグロビンを使用したことはない.一時的に腎機能が悪化した例は有るが,腎不全・血液透析を来したことはない.


8.出血源不明の時

  新鮮血吐血で胃内に凝血塊が溜まっているにもかかわらず、内視鏡にて明らかな出血源が見つからないときには、軽度の糜爛などを見つけて適当にAGMLやマロリー=ワイス症候群などと診断名を付けずに,どこまでも出血源を捜さなくてはならない。見落としの原因として最も多いのはDieulafoy潰瘍であり、次いで接合部・胃静脈瘤、まれではあるが十二指腸憩室出血のこともある。

 Dieulafoy潰瘍

  見落としの原因として一番多いのが胃内のDieulafoy潰瘍である。潰瘍歴がなく、腹痛等の既往もない人が、突然の新鮮血吐下血にて発症する。胃体上部小弯側後壁や分水嶺上のUL-IorII程度の浅い小潰瘍上に新鮮凝血塊が付着した露出血管があることが多いが、場合によっては大弯側の皺壁内にあることもある。原因が粘膜下の異常血管の破綻による出血であるため、薬物による潰瘍治療を行っても再出血することが多く、見つけしだい止血していてもエタノール局注にて完全に潰しておくほうがよいし、血管を完全に潰しておかないと再出血を来たす。

 接合部静脈瘤・胃静脈瘤

  軽度の食道静脈瘤があるも血栓がなくてそれからの出血の可能性がなく、出血源が不明で、胃十二指腸潰瘍も無い時は、接合部静脈瘤・胃静脈瘤からの出血が原因である可能性が多い。接合部静脈瘤は見下ろしでも、反転して見上げてもわかりにくいことが多く、食道静脈瘤に出血部位が確認できなかったら、接合部周囲を注意深く観察し、ちょっとした赤色血栓・白色血栓でも見落とさないようにしなければならない。また胃静脈瘤も胃粘膜を被っており色調は正常で、一見すると単なる大きな皺壁であるとしか見えない場合も多い。少し距離をおいてみると、その盛り上がり方により、静脈瘤であることがわかる。出血点は血栓は作らず、その胃静脈瘤上に小赤点としてポツンとあるだけなので、近接してよく観察しないと見落とすことが多いし、よく観察してもわからないことが多い。接合部静脈瘤は上部の食道静脈瘤からオルダミンを流し込んで止血させ、胃静脈瘤は出血点周囲にヒストアクリルを注入して止血する。食道胃静脈瘤が有って、新鮮血の貯留が胃内に有り、出血部位がどうしても不明の場合には接合部直上より硬化療法を行い、出来るだけ食道胃双方の静脈瘤の硬化療法を行うようにすることが大切である。

 十二指腸憩室出血

  タール便があり、食道胃十二指腸球部までに出血源となるような異常がない場合、十二指腸憩室からの出血の可能性がある。内視鏡が入るところまで挿入し、十二指腸の第三部まで観察する。ファーター乳頭周辺の憩室と、第三部の憩室とが出血源の可能性がある。憩室内に凝血塊があったら洗浄にて洗い流し、露出血管の確認を行う。憩室内に食物残渣等が貯留することにより、糜爛を起こし、引き伸ばされ薄くなった憩室内膜の血管が破綻するものと思われる。通常の抗潰瘍薬では止血効果が無く、エタノール局注の絶対適応である。内視鏡的に止血できなかったら、血管造影を行い、血管塞栓術を行う。しかし、血管塞栓術の止血効果は一時的であることがあるので、落ち着いたら再度内視鏡を行い、露出血管を確認したらエタノール局注を行ったほうがよい。それでも止血できなければ開腹手術の適応である。


9.下部消化管出血

  新鮮血の下血で来た場合、チェックしなければならないのは、腹痛の有無下血の性状(純血性か粘血便か)、既往歴投薬歴(特に抗生剤)などである。出血が止っていると考えられれば大腸の前処置後(下剤±ニフレックス+浣腸で良い)、大腸ファイバー・注腸透視を行う。大腸ファイバーにて出血部位の確認を行い、エタノール局注もしくはクリップ止血が出来れば行うのを原則とする。

  小量の出血が持続していると考えられるときにはまずRI Angioにて出血部位を推定したほうがよいといわれているが,RI Angioにて所見がわかることはほとんど無い.大量の出血が持続していると考えられるときにはすぐに血管造影を行い、塞栓術を考慮する。しかし大量の上部消化管出血でも新鮮血下血を生じることがあるため、上部の内視鏡を前もって必ず行わなければならない。

良く遭遇する下部消化管出血の疾患としては、

 虚血性大腸炎

  腹痛粘血便にて発症する.高齢者に起こることが多い疾患であるが、最近では30〜40歳代にもしばしば出現する。下行結腸からS状結腸にかけてが一番多いが、横行結腸や上行結腸に生じることもある。腹部エコーにて病変腸管壁の肥厚を認める。原則として左側腹部〜下腹部痛粘血便の下血で発症することが多い。貧血になるほどの出血はせず、自然に止血する。腹痛・下血がおさまるまで、絶食とする.腹痛・下血が収まれば,大腸ファイバーにて病変部位を確認し,経口摂取をゆっくり開始する.

 薬剤性大腸炎

  若年者で、薬剤、特に抗生剤投与後に起こる。腹痛粘血便にて発症し、大腸ファイバーにて多発性の糜爛を認める。腹部エコーにて該当結腸壁の肥厚を認める。投薬を中止するだけで改善する。腹痛・下血がおさまれば,大腸ファイバーにて病変部位を確認後,食事を開始する。

 潰瘍性大腸炎

  血便の発症前に下痢や軟便の既往を持っていることが多い。新鮮血の大量出血にて貧血を来たすことがある。出血が持続すれば腸間膜動脈造影にての血管塞栓術およびステロイドの動注を考える。

 メッケル憩室

  若い人で,特に腹痛などの症状がなく、突然の新鮮血下血にて発症する。大腸ファイバー・注腸透視にて出血を来たす病変が無ければ、小腸の二重造影を行い、メッケル憩室を探す。一回でも出血の既往があれば、再出血を来たす可能性が高いため、切除手術を考慮したほうがよい。

 大腸憩室出血

  間欠的な下血にて発症する。出血は純粋な血液で,凝血塊を混じる.好発部位は盲腸-上行結腸S状結腸である。大腸ファイバーでは出血時には病変がわかりにくいが,凝血塊の詰まった憩室があればそこが出血源である可能性が有る.注腸透視にて憩室を見つけ、それより出血部位を推定せざるを得ないこともある。活動性の出血部位が判れば、まずは血管造影にて塞栓術を試みるかどうかを検討する。塞栓術が出来なければ、他に薬剤もないためアドナ・トランサミンS等の止血剤にて保存的治療を試みる。出血は一時的であることが多いが、何回も起こせば手術にて憩室のある結腸部分切除を行う。また出血が持続してショックになるようであれば開腹して結腸切除を行うことを考える。

  バリウム注腸による止血

  大腸憩室からの出血はバリウム注腸にて止血することが往々にしてあるという.これは注腸透視により内腔からの圧力がかかり,また粘調なバリウムが出血点をふさぐことによると思われる.従って,なかなか出血が止まらないときにはバリウム注腸を行うことも一つの方策であると思われる.

 急性出血性直腸潰瘍

(急性出血性直腸潰瘍スライド)

  脳梗塞・心疾患などの重症基礎疾患が有り,寝たきりかもしくは寝たきりに近い状態に陥った人が,突然の新鮮血下血を起こすことが有る.最近本邦で増加している急性出血性直腸潰瘍である可能性が強い.腹痛やその他の前駆症状・随伴症状はなく(無痛性!),出血には凝血塊を混じ,便とは混じらない.この疾患を疑えば,浣腸や摘便のみで直腸内を観察する.出血源が直腸下部であるため,直腸内で大腸ファイバーを反転しての観察が有効なことが有る.治療としての第一選択はエタノール局注と思われるが,局所結紮も有効であると言われている.止血が得られたら,しばらく絶食にて経過を観察し,食事摂取を始めたら下剤投与を行い,硬便による便秘を予防する.


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