指輪の抜き方は簡単だが、私の方法は誰も知らない。インターネットで調べてみても、テープを使えとか、糸を巻き付けろとかあるが、私が実行している簡単な方法は誰にも知られていない。そのためあえてここに載せることにします。まず大事なのは、決して“指輪を押さない”ことです。指輪を指先に向かって押すと、指輪の下の皮下組織が指輪に先立って指先に移動し、皮下組織がかえって厚くなり、余計に抜けにくくなるのです。指輪を抜くコツは「指輪を動かさない」ことなのです。まず普通に動くところまで指輪をPIP関節まで近づけます。その後は、指と指輪は動かさず、“指輪の下の皮膚を、指元の方に、入るところより少しずつ全周性に動かします”。全周性に皮膚が動いたら、その分だけ指輪が自然に指先に進みます。これを繰り返すことによって指輪は、石鹸も糸も使わずに簡単に抜けます。もう一度、書きますが“指輪は動かさず、皮膚を動かす”ことがコツですよ。
子供がタバコを食べたと言って来院しても、タバコを1/2〜1本まで食べていることはまず無い。タバコ中のニコチンが全部溶出すれば、子供の場合には1/2本でも致死量となるが、溶け出す前に除去すれば問題ないし、酸性の胃内では葉からニコチンが溶け出すのには時間がかかる。しかし,水中よりは体温の有る胃内の方が溶けだしやすいことは知っておく必要がある.
タバコを食べたことが明らかである場合には,まず左側臥位とし,14Frの経鼻胃管をあらかじめ胃までの距離を測って挿入し,微温湯を用いて胃洗浄を行う。14Frより小さなチューブでは有効な胃洗浄は出来ない.タバコの葉が無くなるまで胃洗浄を行い、活性炭10gと硫苦(硫酸マグネシウム)10gとを微温湯50〜100mlに混ぜて注入して経鼻胃管を抜去し、帰宅させる。
顔色が青くなってぐったりしたり、嘔吐したり、異常発汗したり等のニコチン中毒によると思われる症状があったら再度来院するように指導して帰宅させるが、今まで入院したり再来院した症例はない。
胃洗浄を全例に行うかどうか,また洗浄液に生食(もしくは1/2生食)を使うか微温湯を使うか等については議論がある.胃洗浄を行う際に誤嚥・嘔吐を起こすというのが反対の理由であるが,胃洗浄に慣れた人が行えば誤嚥等を起こすことはないし,自信が無かったら出来る病院に送るべきであろう.また左側臥位にして胃洗浄を行えば,大量の洗浄液が腸管内にはいる可能性もあまり無いと思われるため,水中毒を心配する必要はない.
釣り針の先を指先などに引っ掛けて取れないと受診する人がよくいる.まず消毒後,針先の方に局所麻酔を行い,針の根元を持針器やペンチ(整形で使用するアメリカンペンチが有ればそれが一番よいが無ければ普通のペンチでもよい)で保持し,針の形に沿って針を回して押し入れ,皮膚から針の先端のかえしが有る部分まで出す.ついでペンチなどで針先のかえしの部分から先を切除し,今度は先程とは逆に針を回すと簡単に抜ける.
子供の場合にはコイン、幼児の場合にはオハジキであることが多い。側臥位にし、透視下に14Frのバルーンカテーテルを経鼻で挿入し、カテーテルをコイン等の横を通過させて異物の下部でバルーンを膨らませ、カテーテルを引っ張り上げる。これでバルーンに押されてコインも口腔内にでてくる。透視下でなくても出来るが、やはり透視を使用するほうが安全である。
大人の場合には肉塊などの食物が食道下部につまることが多く、その時は内視鏡にて胃内に押し込めばよい.老人であれば必ずフォローの食道内視鏡を行い,食道癌等の狭窄の有無を確認しておく.
老人で入れ歯(さし歯)を食道に引っ掛けることがあるが、この時は内視鏡にて一番尖ったところを保持し,注意深く引っ張りながら取り出す。V字型の異物鉗子か把持鉗子を使用する。生検鉗子では保持能力が弱い。大きさが大きいものを引き出すときにはEVL用の透明チューブか大腸ファイバー用のステントチューブを外套として入れ、その中に内視鏡を挿入して引っ張ると食道を傷つけないで済むことがある。
カミソリの歯や薬の包(PTP-Press Through Psckage)を食道内に引っ掛けて来ることがあるが、EVL用の透明チューブか大腸ファイバー用のステントチューブを外套として入れ、異物鉗子や把持鉗子にて引っ掛けて引き出す。取り出す時に出血し、食道穿孔を起こす可能性があるときは入院させて食事制限をしてアルロイドGなどを投与し、経過観察をしたほうが安全である。
食道異物については耳鼻科医としてやはり、直達鏡下で摘出するのがベストと考えております。特に鋭利な物は、鉗子で直達鏡内に引っぱり込んだ後、一緒に摘出するのが安全と思っております。
まあ、全麻が必用となるのですが・・・
当ホームページからのコメント
直達鏡に熟練した耳鼻科の専門医がおり,施行する暇があり,施行される側に安全に全麻が行われる条件があり,大きな直達鏡があれば,石津先生のおっしゃるように全麻下に直達鏡で摘出するのがベストかも知れません.しかし,救急の現場では,上記の条件が満たされることはまずありません.食道に引っ掛かる異物は穿孔の可能性があるため,出来るだけ早く引き出すことが必要です.当院では救急の現場で誰でもが出来ることを目指してこのプロトコールを作成しています.でも条件が満たせば石津先生のおっしゃる方法を試みられることを否定するものではありません.
子供で、針、釘、ボタン、押しピン、乾電池などを飲み込んでくることがあるが、食道を通過するものはそのまま排泄されることが多いため、下剤投与(硫苦10g)にて帰し、翌日来院させて腹単を撮ってみればよい。通過障害を来たす可能性がある場所は幽門と回盲弁であるが、大抵は数日内に排泄されている。排泄されていなければ1〜2日置きに来院させ、腹単を撮って経過を診て良い。
差し歯等の鋭的な物が胃内に有り,それを引き上げるときには,内視鏡の先端にフードを被せる.私が使用しているのはプラスチック手袋である.まず親指のところを少し広くなっているところで切り取る.次いで先端に内視鏡が通る穴を開け,その穴の近傍を内視鏡の先端に輪ゴムなどで固定する.内視鏡を挿入するときには邪魔にならず,内視鏡を抜去するときに広い部分が食道胃接合部に引っ掛かって反転し,フード状になって持ち上げているものを覆う.
ボタン型乾電池の場合にはメッケル憩室に停滞して穿孔を起こした報告もあるため,来院時にまだ胃内に有れば,積極的に透視下でマグネットチューブを挿入して摘出したほうが良い.小腸に移行している場合にはそのまま排泄されることがほとんどであるため、翌日来院させて腹単でフォローしてよい.普通の乾電池の場合には自然排泄される可能性は少ないため、一ヵ所に8時間以上・胃内に24時間以上留まっているようであれば、透視下にマグネットチューブを挿入して摘出したり,胆道ファイバー用のバスケットカテーテルを挿入し,カテーテルに鋏んで引き上げる。それが困難であれば内視鏡下にポリペクトミー用のスネアーや異物鉗子を胃内に入れ、はさんで摘出することを考える。異物が大きければ、内視鏡下に最初から取り出すことを試みてもよい。
★マグネットチューブ★
日本シャーウッド社発売で,argyleよりマグネットチューブの名前で発売されている.サイズは12Frで長さは120cm,カタログ番号は2653-12である.強力な磁石が付いており,大きな乾電池でも引っ張り出す力を持っている.
気管内異物の大きさ、形状にもよるが、透視下で位置や形が確認できれば、挿管チューブを通じてか、若しくは透視下に直接、気管内に胆道ファイバー用のバスケットカテーテルを入れ、カテーテルに鋏んで引き上げる。ピーナッツなどで閉塞性肺炎を起こしている場合には、肺炎の場所により閉塞の場所がある程度推測できるため、透視下にバスケットカテーテルをそこの直前まで挿入し、カテーテルを更に奥まで挿入することにより閉塞物質をつかんで除去できることがあるため、一回はトライする価値はあると思われる。それが出来ないと、気管支ファイバー下に除去を行う。どうしても取れないと開胸せざるを得ない場合もある。
中心静脈用のカテーテルの血管内に入っている部分が切れ、静脈内に遺残することがある。大抵は上大静脈から右房にかけて存在する。鼠径部の大腿静脈にシースカテーテルを入れ。セルジンガー法にてその中に胆道ファイバー用のバスケットカテーテルを入れ、バスケットの中に遺残カテーテルを引っ掛け、そのままシースと共に引き抜くと簡単に除去できる。
子供の場合には肘内障,成人の場合には下顎脱臼・肩関節脱臼が多い.
肘内障の場合
肘内障では家族の訴えでは肩が上がらなくなったと言われる事が多い.しかし注意深く観察すれば,肩には異常なく,触ると肘関節を痛がる.肘内障の場合には顆上骨折や外顆骨折と違って変形・腫脹はないため,X線をとる必要はない.患側と反対側の自分の手(右肘関節であれば左手)で肘関節をつかみ,親指で橈骨頭を押さえ,あいている手で患側の前腕を回外させると約80%の症例で整復できる.橈骨頭を押さえている親指に整復時の感触が伝わる.それで整復できなかったら回外の姿勢を保ったまま前腕を押し込むようにしながら屈曲させる.これで100%整復できる.整復直後は患児は泣いていることが多いため,5分間外来で待たせ,5分後に万歳をさせる.万歳が出来るようであると整復されている.有る程度習慣性になりやすいため,子供の手をあまり強く引っ張らないようにしたほうがよいことと,5歳ぐらいまでには靭帯が発育し,脱臼しなくなることを説明し,帰してよい.
肩関節脱臼の場合
肩関節脱臼は中学生ぐらいから成人にかけて起こる.余り痛みが無く,Hippocrates法やKocher法にて簡単に整復される症例はよいが,痛がって整復が困難な症例にはイソゾール麻酔を行う.イソゾールを2〜3mg/kg(若者は多めに,年寄りは少なめに)使用し,筋緊張をとると単に上方に引っ張るだけでも簡単に整復される.初回例では,3週間は上腕を固定していたほうが習慣性となるのを防止できることを説明し,翌日整形受診をするように言って帰宅させてよい.
下顎骨脱臼は成人から老人にかけて起こる.一人で整復するときには,患者さんに坐位を取らせ,患者さんの後方から頭が動かないように胸で固定し,両側の下顎の奥歯を両手の親指で強く下方に押しながら首に向かって押し込む(ヒポクラテス法).介助者がいるときには,介助者に頭を後方から固定してもらい,前方から同様のやり方で下顎を押し込む(ケーレ法)(ドジョウすくい法!)と整復できる.この場合も,筋緊張が強くて整復が困難な例ではイソゾールを2〜3mg/kg使用し,筋緊張を取ってやると,簡単に整復できる.イソゾール使用時には,仰臥位にして枕を外し,同様の手順で下顎の根部をを強く押し下げながら上方に押し込むと整復できる.
熊本市の歯科医師清村先生の御意見
「下顎骨脱臼の整復の際には,術者はアングリと口を開けた患者の前方に立ち,左右の示指に咬傷予防の為にタオルなどを巻き,その指先を患者の口腔内に入れ,左右の(下顎骨脱臼の多くは片側性脱臼なので,その時は患側のみ)大臼歯後方の下顎骨体上行部に,挿入した術者の指先をあて,軽く後下方に下顎を押してやります.同時に患者には閉口するよう指示いたします.こうすると力を要することなく,難なく下顎脱臼を整復できます.この方法で,従来の方法では整復に多大な困難を要するエラの張った屈強な男性でも,ウソのように簡単になおります.」
・・・・・今度,外来にて下顎骨脱臼の患者さんが来られたら,私も試してみようと思っています.
女性の尿閉では導尿が簡単に出来るが、男性の尿閉で導尿に困難を来たす場合がある。原則として、前立腺肥大等の外側からの圧迫で導尿が出来ない場合には腰の強い、太めのバルーンを選択するのに対し、尿道炎などで尿道狭窄を来たしている場合には細めのバルーンを選択する。
一般的な導尿のコツは
1、ペニスを真っ直ぐに延ばし、尿道を出来るだけ直線化し、バルーンを挿入する。それでも入りにくければ、真っ直ぐに延ばしたペニスとバルーンとを一緒に押し込むようにすると入りやすい。
2、10ccの注射器にキシロカインゼリーを詰め、外尿道口から尿道内に注入し、その後で上記のようにバルーンを挿入する。
3、上記で導尿出来なければ、無理をせずに透視下にバルーンを入れるほうが安全である。まずバルーン内に専用のスタイレットを入れ(なければ挿管用のスタイレットでもよい),バルーンの先を曲げたJ-shapeとする。体位を斜位とし、ウログラフィンで尿道造影を行い、尿道に沿ってバルーンを挿入する。
他院からバルーンがなかなか入らないといって転送されてくる場合には、既に尿道に傷がついていることがあるため、最初から透視下で導尿を行うほうが安全である。
付)尿道狭窄について
バルーン挿入時に亀頭より4〜5cmの所で狭窄があってバルーンが入らないことがある.これは過去の淋菌などによる尿道炎にて部分的な尿道狭窄を来しているものである.器質化していることが多く,そのままではバルーン挿入が出来ない.キシロカインゼリーを注入した後,セッシやペアンなどにより狭窄部をブジーし,拡張させることによりバルーン挿入が可能になる.
女性の外尿道口の狭窄の場合も,ほとんどは瘢痕狭窄であるので,セッシ等でブジーを行うことによりバルーン挿入が容易となる.
乳幼児の鼠径ヘルニアの嵌頓の際には麻酔はいらない。少々泣き叫んで腹圧がかかっても整復には障害とならない。短時間で整復してあげれば無麻酔でも良いと思われる。それに対し、成人のヘルニア嵌頓の場合には、原則としてイソゾール麻酔にて整復を行うのが良い。ソセゴンやセルシンを使用しても、瞬間的な強い痛みには無効である。イソゾールを2〜3mg/kg使用する。老人では少なめでも良い。少量のイソゾール静注ではあまり呼吸抑制もこないため安全であるが,嘔吐・誤嚥には注意する必要がある.
鼠径ヘルニア嵌頓の場合、大抵は外鼠径ヘルニアの嵌頓であるため、まず鼠径管を確認し、外鼠径輪をしっかり左手の(右利きの人は)親指と人差し指の二本の指で固定し、鼠径管に添って下方にサックを押し下げ、外鼠径輪に隙間を作る(ここがポイント!)。もう一方の手(右手)の指で腸管が嵌頓しているサックをいろんな方向(特に裏面)からもむようにしながら外鼠径輪方向に押し込む。どんなに大きく出ていていても、一部の腸管が還納されると、あとはスルスルと入っていく。左手で鼠径管を下方にぐっと押し下げるのがコツである.
還納してよいかどうかは局所の炎症所見による。局所が発赤しており、ちょっと触っただけで疼痛があれば、嵌頓している腸管が絞扼され壊死を起こしかけていると考え、手術をしたほうがよいが、局所の炎症所見が無ければ、多少時間が経っていても還納してよい(子供のヘルニア嵌頓で、24時間以上経っていれば手術すると本に書いてあるけど、それは間違いで嵌頓して時間が経っていても、局所の炎症所見さえ無ければ整復してよいし,逆に炎症所見が強ければ,時間が短くても手術したほうが安全である。女児の卵巣嵌頓の場合も同様である)。ただ嵌頓されていた時間が長かったり、嵌頓による絞扼が強かったりする症例では腸管損傷を起こしている可能性があり、整復後は絶食にて経過を観察し、腹痛の出現・血便の出現・腸閉塞症状の有無に注意する。数日経ってから腸閉塞症状が出現することもある.
老人の女性の場合は、鼠径ヘルニア嵌頓のように見えても大抵は大腿ヘルニア嵌頓である。また男性でも少なからず大腿ヘルニア嵌頓の場合があるため,要注意である.大腿ヘルニア嵌頓の整復は大腿輪に向かって上から強く押し込む。自覚症状としての局所の痛みが無く、局所の炎症症状が少なければ、少しぐらい時間が経過していても押し込んでよい。しかし局所が発赤しており,触診でヘルニアに緊満感強く、圧痛が強く、腹部エコーにてサック内に腹水を多く認めれば腸管が絞扼されて時間が経っている可能性が強く、緊急手術を行ったほうが安全である。しかし嵌頓状態で手術するより、整復した後にゆっくり手術するほうがはるかにやりやすい。
嵌頓を整復しても脂肪織に囲まれたサックはそのまま残るため、鼠径ヘルニアの場合と異なり、あたかもまだ還納されてないように柔らかいサックが触診できるが心配いらない。大腿ヘルニアはRichter ヘルニアの形をとることが多いが、気づかれずに数日間経過し、腸閉塞にて来院することがある。そのような症例の場合には腸管壊死を起こし始めていることがあり、局所の炎症所見も強くなっていることがあるため、緊急手術をしたほうが安全である。
臍ヘルニア嵌頓も発症より早期で、局所の炎症所見がなければ、そのまま強く下方に押し込んで、整復してよい。緊満しており、圧痛が強ければ嵌頓した腸管が絞扼され、腹水が貯留している可能性があり、その時はいくら押し込んでも整復されず、緊急手術の適応となる。腹部エコーにて嵌頓サック内の腹水が多ければ、手術したほうがよい。しかし壊死まで来たしていることは少ないため、しばらく絞扼されていた腸管の色の回復を待ち、正常化すればそのまま腹腔内に戻してよい。
特発性鼻出血・外傷性鼻出血のいずれであっても、まずはボスミンガーゼによる前方パッキングを行う.綿球では奥まで入らないため駄目である.鼻出血用に幅の狭い長いガーゼを作り(もし作り置きがなかったら,普通の平織のガーゼを2〜3cm幅に切り,結びあわせて1.5〜2mのガーゼを作るとよい),それをシャーレにてボスミンに浸し、前鼻孔より詰める。まず奥の方より詰め,次いで上方のKiesselbach部位に詰める.前方からの圧迫やボスミンガーゼタンポンにても止らないような症例では後方パッキングを行う。まず14Frのバルーンカテーテルを後鼻孔まで通し、空気10cc(水ではだめ)にてバルーンを膨らませ、カテーテルを引っ張り上げて、後鼻孔を後方より閉鎖する。更にカテーテルを引っ張りながら前方より、ボスミンに浸した細長いガーゼを鼻腔いっぱいになるまで詰める。カテーテルは少し緊張をかけて引っ張りながら前鼻孔で固定する。アドナ・トランサミン等の止血剤投与と副鼻腔炎等の感染予防のための抗生剤投与を行う。翌日にカテーテルの牽引を中止し、再出血しなければカテーテルを抜去し、その後ボスミンガーゼを徐々に抜いていく。
鼻出血に対する石津先生の御意見
鼻出血については、まず、ボスミンガーゼを挿入して、外鼻孔を両側つまむように数分待って貰い、ボスミンガーゼで止血しない場合、30cmくらいの長さのタンポンガーゼにゲンタシン軟膏等を塗布して(何日も入っていると感染を起こすし、これだと摘出までの間に粘膜を傷つけることが少ないと考えます)挿入することをお勧めします。中にはベロック・タンポンさえ入れとけば止まると誤解されているドクターも多いようでその後の処置に困ることがあります。
当ホームページからのコメント
ゲンタシン軟膏等をボスミンガーゼに塗布することは良い方法だと思われます.沖縄県立中部病院ではエコリシン眼軟膏をボスミンに混ぜていました.しかし,ボスミンガーゼを入れておく期間はせいぜい半日程度にすべきであると思います.ボスミンガーゼをゆっくり除去しても再出血するような場合には,耳鼻科専門医による止血等を考えるべきだと思います.日本の本では,救急の鼻出血の項目は耳鼻科の先生が書かれているため,必ずベロック・タンポンが記載されていますが,一般の救急病院ではベロック・タンポンは常備していないことも多く,やはり後方パッキングとしてどこにでもあるバルーンを使用するやり方を憶えておくと役に立つと思われます.
喀血の原因の多くは気管支拡張症であり、年寄りに多い。通常はアドナ・トランサミン等の止血剤投与にて収まるが、止血剤投与にても出血が持続し、呼吸困難を来たしてくるようであれば、陽圧呼吸による止血を考えなくてはならない。経鼻挿管を行い、鎮静剤を投与して調節呼吸を行う。それでも出血が持続するようであれば、PEEPをかけての陽圧呼吸を行う。これにてほとんどの症例は止血が出来る。それでも出血が続けば、血管造影にて気管支動脈の塞栓術を行うことを考慮する。
マムシは田の畔や草むら・土手など、どこにでもおり、春先から秋まで、いつでも噛まれ得る。長さ20〜30cmで、小さく、コゲ茶色で黒っぽい曲がった縦縞があり、三角形の頭を持っている。牙は二本あり、噛まれると1cm幅に牙痕が二つ付く。噛まれてすぐに振りほどけば毒が入らないこともある。噛まれて2〜3時間様子を見て,全く腫れてこなければ、毒は入ってないと考えてよい。念のために抗生剤ケフラール1.5g/3とセファランチン6mg/3を3日分投薬して外来で帰してよい.
来院時にすでに腫張していれば、すでに毒素が入っているため、処置して入院させる。処置は、牙痕部を皮下組織まで切開する。次いで、腫張している部分(手背もしくは足背)にも約1cmの縦切開を数ケ所行い,周囲を圧迫しながら切開部から皮下組織内の滲出液を押し出していく。滲出液中に毒素が含まれており、押し出すことにより、その後の腫張の進行が軽減する.
滲出液を押し出した後はガーゼを厚めにあて、入院させて,安静を保つ.維持液を一日4〜5本点滴し、充分量の尿量を確保するようにする。セファランチン1Aを6時間毎に静注し、抗生剤を静注にて使う。マムシ抗血清は原則として使用しないが,腫張の進行が早くて体幹部に及びそうになったり,疼痛が強かったり,悪心・嘔吐や複視などが出現してくるようであれば、使用したほうが安全であると考えられる.
腫張が進行すると、組織破壊酵素であるGOT・LDH・CPKが上昇する。特にCPK値の変動は、組織破壊が進行しているかどうかを知るのに役に立ち、重症度の指標となる。腫張が進行し、尿の流出が悪ければバルーンを入れ経時的な排尿量をチェックする。点滴やセファランチン・抗生剤の静注は腫張の進行が止るまで持続する.セファランチンの効果については疑問があるが、害のない薬であり、安価でもあるため使用してもよいのではないかと考えている.
破傷風の患者が病院を訪れるのは開口障害が起きてからのことが多いが、背中が痛いとか、顎が痛いとかの訴えのみで受診することもある。破傷風が疑われたら、もしくは本人及び家族が破傷風を疑っていれば、入院させて経過を見たほうが安全である。最初の外傷は軽微で、受診時には治っていることが多いが、鎌や鍬など泥のついている刃物での傷が多い。傷に痂があればそれを切除し、オキシドールにて洗浄する。冷汗が強く、痙攣を起こしてくるようであれば、早めに気道確保を行う。炭酸ガス貯留があれば、レスピレーターにて調節呼吸を行う。
標準的投薬は
1,受動免疫としてテタノブリン3000〜6000Uを点滴静注する。(テタノブリンは1500U/Vのテタノブリン-Iを使用。)
2,能動免疫としてトキソイド0.5mlを筋注する。(一箇月後、半年後に追加する.さらには10年ごとに追加接種を繰り返す.)
3,ペニシリンを1200〜3000万単位/日点滴静注する。(具体的には筋注用のペニシリンGカリウム100万単位/バイアルを200〜400万単位/一回、生食に溶いて点滴静注する。あるいはソリタT1500mlに400〜1000万単位/6時間を持続点滴する。1週間目より減量し、2週間で中止する。
4,鎮静と鎮痙を兼ねて、フェノバール400mg/日で使用する。(200mgを12時間毎に筋注する。)
5,小痙攣が起きる度にセルシン10〜20mg静注する。
6,呼吸管理は痙攣が消失し、セルシンの使用が無くなり、冷汗や流涎が無くなるまで行い、呼吸器を離脱させ、抜管する。気管切開の必要はない.
7,維持点滴は中心静脈栄養とするが、ペニシリンには大量のカリウムが含まれ、高カリウム血症を来たしやすいため、要注意である。
8,交感神経過緊張状態(autonomic overactivity)となり,循環動態が不安定となれば,Barbiturate療法を行う.イソゾールを3〜5mk/Kg/Hrで使用する.
破傷風は菌の出す外毒素tetanospasminによって起き,入った菌の量とその増殖速度によって発症時期と重症度が決まると考えられる.
トキソイド接種から5年以内ではすぐに抗体を産生し,5年から10年経っていると,抗体産生能力が落ち,10年以上経っていると抗体産生能力はなくなっていると考えられる.そこで傷の汚染の程度と,前回の接種からの経過時間によりトキソイド・テタノブリンを使用するかどうかを考えたらよい.
[トキソイド接種を受けていないか,前回接種より10年以上を経過している場合]
1.軽微な傷.---トキソイドの接種のみ
2.中程度以上の傷か軽微な傷でも汚染がある場合.---トキソイド+テタノブリン250U
[トキソイドの追加摂取後5〜10年]
1.軽微な傷では傷の処置のみ
2.中程度の傷か軽微なきずでも汚染がある場合.---トキソイド接種
3.大きな傷か汚染が強い傷-----トキソイド+テタノブリン250U
[トキソイドの追加摂取後5年以内]
外傷全般(汚染された外傷を含む)----基本的には傷の処置のみ
【解説】
基本的には菌が増殖して毒素を出すが,その時にトキソイド接種後より5年以内であれば自力で抗体をすぐに作れるため,汚染創であっても創処置のみで十分である.接種後より5年から10年だと抗体産生力は弱くなっている.軽微な傷で産生される程の毒素であれば十分中和できるため,特に処置は要しない.しかしある程度の汚染創では急激な抗体産生を促すためにトキソイド接種が必要になる.また高度な汚染の場合には菌の増殖も早く,毒素の産生も早いため,一時的にテタノブリンを用いて中和させる必要があると思われる.またトキソイド接種を受けてないか受けてから10年以上経つ人は抗体産生能が全く無いと考えなければならない.軽微な傷であれば菌が増殖して毒素を出す前にトキソイドによる抗体産生力が上回ることが出来ればよいため,トキソイドだけで十分である.しかし中程度以上の傷や汚染創ではトキソイドによる抗体産生能より毒素産生能が上回る可能性が強いため,テタノブリンを使用する必要があると考えられる.
要は,毒素の産生力と本人の持っている抗体の産生力との兼ね合いで判断せざるを得ないと思われる.また普通田舎では最近トキソイドをしたことがある人は少ないと思われるし,外傷の時にトキソイドを接種してもらったかどうかを憶えていることも少ないと思われるため,基本的には免疫力が無いと考えて対処したほうが安全である.例えば釘を踏んだとしても新鮮な釘だとトキソイドだけでよいが,錆びた釘などではテタノブリン投与を考慮したほうがよい.鎌で切った場合,きれいな鎌であったらトキソイドだけでよいが,農作業中に鎌で切った場合にはやはりテタノブリンまで投与したほうがよい.
小さい子供の場合には、補液を多めに入れなければならない。
一応の規準としては
体重が10kg以下の場合では
体重×100=一日の補液量mlで時間量はこれを24で割る
(たとえば8kgの子供の場合では一日の必要量が800mlであり、800/24=33ml/hである)
体重が10kg以上〜20kg未満の場合では
1000+(体重-10)×50=一日の補液量ml
(たとえば15kgの子供の場合には一日の必要量は1250mlで、1250/24=52ml/hである)
体重が20kg以上の場合では
1500+(体重-20)×20=一日の補液量ml
(たとえば30kgの子供の場合には一日の必要量は1700mlで、1700/24=70ml/hである)
これが一応の規準であるが、腸炎や脱水の場合にはこれより2割増とし、頭部打撲で脳浮腫が疑われる場合や、肺挫傷の場合では2割減とする。