外傷プロトコール

救急治療室


目次

     
  1. 外傷一般  
  2. 頭部外傷  
  3. 顔面外傷  
  4. 腹部外傷     
  5. 胸部外傷      
  6. 挫滅症候群(crush syndrome)  
  7. 熱傷   


1.外傷一般

  頭頚部損傷で意識レベルの悪い患者が搬入されたら頭部CTおよび頭部4方向正面・側面・Town・逆Water、頭皮下血腫があればその接線撮影も)と頚椎側面(C7まで入れて)の写真を撮る。頭部CTにて頭蓋内に明らかな病変がある患者は脳外科に相談する。

  胸腹部・腰部の外傷の患者の場合は、まず20ml採血して末梢の点滴を確保し、腹部エコーを行う。損傷臓器の同定、腹腔内出血の有無を調べ、単純写真を撮る。腹腔内出血が無いか軽度しかなく、立位が出来る人であれば、胸写立位・腹単の立位と臥位を撮る。腹腔内出血がある程度以上あり、血圧が不安定で、立位が出来ない人には胸写臥位・腹単臥位(横隔膜を入れて)・腹単側臥位(横隔膜を入れて)・骨盤の写真を撮る。腹腔内臓器損傷が疑われる症例には、腹部の造影CTCT後のKUBもroutineに撮る.


2.頭部外傷

  頭部外傷における頭部CT撮影の適応は持続する意識障害,朦朧状態,神経症状出現例頭蓋骨骨折,頭蓋底骨折疑い(耳出血,鼻出血,Black eyeなど)である。単なる受傷時の一過性の逆行性健忘でも,後でトラブルの原因となりえる交通事故などの時は頭部CTを撮っておいたほうがよいと思われる.自分の名前と生年月日・住所が言えるようであれば、重篤な器質的障害は無いと考えてよいが、不穏状態が続いたり、従命しなかったりすれば、頭部CTにて器質的損傷の有無を除外しなければならない。意識障害が持続したり、初回の頭部CTにて何らかの異常所見があれば、重症患者では6時間後に、軽症患者でも翌朝に必ずフォローの頭部CTを再検する。CTにて明らかな頭蓋内病変のない意識障害は単なる脳振盪か、軽度の脳幹部損傷である可能性が強く、徐々に改善してくるので、胸腹部外傷や四肢外傷が主であれば、外科にて経過を見てもよいが、明らかな意識障害があれば脳外科に相談したほうがよい。受傷直後に起こる外傷性痙攣はその後の意識が清明であれば余り問題ではないことが多いが、受傷後しばらく経ってから起こる痙攣は脳表に器質的障害を起こしていて、抗痙攣剤の長期投与が必要になることがあるため脳外科に相談する。

  アルコールの酩酊患者で,頭部打撲がある場合は,酒から醒めるまでは外来で経過を観察する必要が有る.そして何らかの異常が観察されれば,必ず頭部CTを撮る


3.顔面外傷

  顔面外傷にて見逃してはならないのは次の二つである

吹き抜け骨折(Blowout fracture)

  眼窩底骨折にて起こる.上顎部を打撲していると周囲の腫脹が強く,眼球運動が見にくいこともあるが,必ず上転視(上を見させる)させ,眼球運動の左右差を見ながら,複視が無いかどうかのチェックをしなければならない.受傷側に上転障害が起きる.二週間以内に処置を行えばよく,全身状態が落ち着いたら,眼科医もしくは形成外科医に相談する.

  視神経管骨折(視神経損傷)

  まず視力障害が起きる.眼窩部を打撲してきた場合,簡単な視力検査を必ず行う.打撲側の視力が極端に落ちている場合には視神経損傷を疑わなければならない.視力が落ちるほか,間接対光反射は保たれるかわりに,直接対光反射が消失するのが特徴である.診断は視神経管撮影もしくは眼窩のCTにて付けられるが,早急な視神経管解放手術が必要になることがあるので,すぐに夜中でも眼科もしくは脳外科に相談する.


4.腹部外傷

鈍的腹部外傷に対してー腹腔内出血-全般

  鈍的腹部外傷の患者が搬入されたらまず腹部エコーを行い、腹腔内出血・free airの有無損傷臓器の検索を行う。理学所見・腹部エコーにて所見があれば腹部造影CTを行い、損傷臓器の同定を確実なものとし、合わせて腸管損傷によるfree airの検索を行う。造影CT後に腹部単純(KUB)を撮り、DIPの替わりとする。鈍的腹部外傷の腹部CTは最初から造影CTでよく、単純CTを撮る意味はあまり無い(腸間膜血腫の有無の判断には有用であるが)。損傷臓器・腹腔内出血量を腹部エコー・腹部造影CTにて推定する。腹腔内出血があるとき、出血源の周囲には凝血塊が付着するため、エコーやCTにてhigh densityとなり、出血源から離れたところの血液は液状であるためlow densityとなる。凝血塊はエコー上は一見実質臓器と同じように見えることがあるため、注意が必要である。特に肝破裂の時は肝表面に、脾損傷の時は脾表面にhigh density layerが出現し、実質臓器との境界が曖昧になることがある。造影CTは造影剤が半分の50mlが落ちたときから開始する。動脈性の持続出血があればExtravasationが損傷臓器の周囲に明らかとなることがある。

腹水穿刺の仕方

  腹水の確認はまずエコーにて行い、エコーガイド下に一番貯留している所にて行うのが一番安全である。バルーンカテーテルを入れていると、膀胱前部に液体貯留が多くなるため、ここを穿刺してもよい。局麻をした後(しなくても良いが)、ピンク針(18番針)をゆっくり刺していく。腹膜を通るときには軽い痛みと抵抗がある。注射器等は付けず、自然滴下に任せる(腹腔内は陽圧であるため)。そのまま出てくる液を受け、血液検査に提出(血算・緊検の項目で-白血球・Hct・T-Bilir・GOT・GPT・アミラーゼは必須である)する。腸管破裂があると腹水中の白血球値が増加し、特に小腸破裂の場合には腹水中のアミラーゼ値が上昇する。

  持続排液の仕方ー腹腔内出血があるも出血量の増加が収まり、血圧等が安定し、簡単に穿刺排液できるようであれば受傷から1日ぐらいおいて、局麻をしてエコーガイド下に側孔を開けた14Frの中心静脈用チューブにて膀胱上窩or右横隔膜下を穿刺し、フィルターを除去した点滴セットもしくは延長チューブに接続して持続排液を行う。そのほうが腹満が取れて呼吸状態が改善するし、腸管の動きもよくなる。しかし、しなくても1000cc程度の出血であれば,1週間ほどで横隔膜から吸収される。

腹腔内出血量の腹部エコーによる推定
沖縄県立中部病院 松本廣嗣先生による)

 1)モリソン窩and/or脾腎境界面のみ  -150ml
 2)1)+ダグラス窩または膀胱上窩のみ  -400ml
 3)2)+左横隔膜下腔のみ          -600ml
 4)3)+両側傍結腸窩のみ          -800ml
 5)4)+右横隔膜下腔(腹水の厚み0.5cm)-1000ml
      同   (  同   1cm)-1500ml
      同   (  同  1.5cm)-2000ml
      同   (  同  2.0cm)-3000ml

(これは仰臥位で体重50kgの人に対する推定量であり、子供や身体の大きい人の場合には体重に比例させて考える。また骨盤骨折など後腹膜血腫がある場合には腹水が上腹部に集まり過大評価されるため要注意である。)

緊急血管造影・血管塞栓術の適応

  腹部エコー・腹部CTにて腹腔内出血・肝脾腎損傷の実質損傷があるもバイタルが安定しており,腸管破裂が否定できるときには原則として保存的に加療する。ICUに入室させ、バイタルサインをチェックしながら、経時的な腹部エコーを頻回に行い、腹腔内出血量の増加の有無を調べる。腹腔内出血量が増加し(腎損傷の場合には増大する後腹膜血腫もしくは大量の血尿)、血圧・尿量が低下すれようであれば損傷臓器の選択的緊急血管造影を行い、Extravasationがあればスポンゼル細片もしくはコイルにて血管塞栓術を行う。来院時にショック状態であっても補液にてすぐに血圧が安定するような症例は保存的に加療できるが,補液のスピードを緩めると血圧が低下したり,血圧の維持に輸血を必要とするような症例は持続する出血が有ると考え,腹部エコー・造影CT後,直ちに血管造影を行う.目的とする損傷臓器にExtravasationが無く、腸間膜など他からの持続出血が考えられれば開腹する。

  腹部を前方から打撲し、肝脾腎損傷が否定され、腸間膜からの出血が予想される症例で、腹腔内出血量が増加するようであれば早目に開腹したほうがよい。持続出血があるような腸間膜損傷は、高率に腸管損傷を合併するからである。

腸管破裂

  腸管破裂を疑わせる腹膜刺激症状があり、腹腔内出血があるときには腹水穿刺を行う。腹水中のHct値を全身のHct値と比べて明らかに薄ければ、腸液の混入か後腹膜血腫からの染みだし,もしくは膀胱破裂の可能性がある。また腹水穿刺液中のアミラーゼ値が高値を示すものは、膵損傷がなければ小腸破裂の可能性が高い。大腸破裂の場合にはアミラーゼ値の上昇はあまりないが、白血球数が増加する。肝損傷で胆管損傷を合併する場合には腹水中のビリルビンが高値を示すようになる。

  ある程度以上のfree airがあれば、腹部エコーにて肝表面の腹膜直下にhigh echo densityのfree airが出現するため、腸管破裂を疑えば、まず腹部エコーにて丹念に肝表面を精査する必要がある。しかしエコーの所見のみではまだ確定診断とはならないため、必ず単純写真やCTにて確定診断を付けるようにする。

  腸管破裂を疑い、血圧が安定していれば立位もしくは座位にて胸写・腹単を撮る。

  血圧が安定しない症例、立位・座位が取れない患者の場合には、左側臥位の腹単で、肝表面のfree airを捜す。

  胸写・腹単にてfree airは見つからないが、腸管破裂が強く疑われるときには腹部CTを撮り、微細なfree airを捜す。腹部CTにてもfree airが見つからないときは保存的に経過を観察してもよいが、腹膜刺激症状が増悪するようであれば、腹部CT・腹水穿刺などの検査を繰り返し、時期を逸せず開腹を行う。Delayed laparotomyとなるより、Unnecessary laparotomyを選んだほうが安全である。


十二指腸損傷

  外傷性の十二指腸損傷で注意しなければならないのは後腹膜への破裂の場合である.free airは出ないが,腹部CTにて右腎周囲の後腹膜内にair像が見られることで診断が付く.受傷からの時間が短く,汚染が少なく,損傷が小さければ,一期的な縫合のみでよいが,そうでなければ何らかの付加手術を考慮しなければならない.空腸漿膜パッチ法を行って吻合部の補強をするか,十二指腸憩室化法もしくはpyloric exclusion法にて吻合部の減圧を計る必要がある.

  十二指腸壁内血腫による通過障害に対しては出来るだけ保存的に加療する(特に子供の場合).診断は腹部CTおよびガストロ透視にて付けられ,中心静脈栄養・経鼻胃管挿入にて2〜3週間で通過障害は改善する.


骨盤骨折

  骨盤骨折があり(特に仙腸関節離開)、腹腔内臓器損傷が否定でき、輸液・輸血にもかかわらず血圧が上昇しない場合には、すぐに緊急血管造影大動脈造影-内腸骨動脈造影)を行い、Extravasationを認めても認めなくても、すぐにスポンゼル・コイルにて両側内腸骨動脈の根部からの血管塞栓術を行う。

  両側内腸骨動脈の塞栓術による合併症として男性ではインポテンツの可能性が指摘されているが,女性では合併症の報告はない

  仙腸関節離開・横突起骨折があったら、腰動脈出血の可能性があるため、まず腹部大動脈造影を行い、下部腰動脈造影も行う。また内腸骨動脈を塞栓しても血圧が上昇しないときには外腸骨動脈の分枝下腹壁動脈など)の可能性もあるため,腹部大動脈造影を注意深くチェックする.

  骨盤骨折で大量の後腹膜血腫が形成されると、1週間から10日後をピークとする総ビリルビンの上昇があるがあまり心配しなくてよい。後腹膜血腫はそのままでは吸収されず、溶血という形を取るため、ビリルビンが上昇するのである。しかし総ビリルビンが20mg/dlを越えるようだと、血液吸着の適応となることもある。

  骨盤骨折で仙腸関節離開などで可動性が強ければ、早急に創外固定の適応となる.

膵損傷

  膵損傷の原因として一番多いのは酒酔い運転で自損事故を起こした場合のハンドル外傷である.膵損傷を起こしてきた場合、問題となるのが主膵管損傷の有無と膵挫傷の程度である。腹部CTや腹部エコーにて主膵管損傷が疑われ、時間的余裕があり、全身状態が許せば、必ずERPを行い、主膵管損傷の有無・損傷の程度を確認する。主膵管の完全断裂(cut off type,cut off and leak type)絶対手術適応であり、膵体尾部切除を行うか、Letton-Wilson型の膵-空腸吻合を行わなければならない。主膵管の不全断裂(lateral leak type)の場合にどうするかはcontroversialであるが、主膵管からの漏れが多ければ開腹したほうが安全であるし、漏れが少なければ保存的に観察できる。末梢膵管からの造影剤の漏れは原則として保存的に加療する。膵挫傷にて膵周囲滲出液が増加してくるものは相対的手術適応であり、膵縫合・膵授動を行ってドレナージを行わなければならないこともあるが、保存的治療で結構消失するし、膵周囲膿瘍・膵仮性嚢胞を形成してくればその段階でエコー下にPig tail catheterを入れて、経皮的ドレナージを行ってもよい。

肝損傷

(肝破裂画像)

  右下部肋骨骨折がある場合,肝損傷の合併を絶えず考慮しなければならない.肝損傷における開腹適応は少ない。出血量の増加は肝動脈造影-塞栓術によりほとんどコントロールできると考えて良い。後期合併症としてのBiloma形成、肝膿瘍形成等はエコー下ドレナージにて対応できる。しかし急速に出血が進行し、血管造影を行っている余裕のない症例には緊急開腹を行わなければならない。開腹の際まず行うことは、Pringle法で、肝十二指腸靭帯にサテンスキー血管鉗子をかけ、肝動脈・門脈からの出血を止血する。また胆管損傷があり、腹水中の胆汁が増加(腹水穿刺によりT.Bilirの上昇を見る)するものも手術適応である。その場合に余裕があれば術前ERCを行うか、術中胆管造影を行って胆管損傷の場所を確認しておくほうがよい。肝静脈-下大静脈損傷で肝を持ち上げると血液がわいてくるようであれば、ガーゼパッキングにて一時的止血を計ったほうがよく、時間を置いて,全身状態が安定し,凝固能が改善し,正常体温にもどってからsecondary look operationを行う。

脾損傷

(脾破裂血管塞栓術)

  左側腹部打撲の既往・左下部肋骨骨折・腹腔内出血があれば、まず脾損傷を疑う。脾損傷で問題になるのは出血の持続と、遅発性脾破裂である。持続出血は腹部エコーにおける腹腔内出血量の増加で証明でき、脾動脈造影にてExtravasationが証明できれば、スポンゼル細片にて塞栓することが出来る。遅発性脾破裂は、脾損傷があるも被膜の連続性が保たれており、被膜下血腫の形を取っていたものが、何らかの原因にて被膜が破れて腹腔内出血を起こして来たものが多いと思われる。術前診断がつかず、原因不明の腹腔内出血と診断されて開腹されることが多いが、改めて聞き直すと何らかの外傷の既往を持っているものである。


尿管損傷

  尿管損傷は術前に診断を付けることは困難である。造影CTにて尿管の不連続性の確認、尿の溢流があればある程度の診断が付く.腹部外傷の精査のための造影CT後にルーチンに腹部単純(KUB)を撮るようにしておけば、尿管損傷を見逃すことはない。

腎損傷

(腎破裂CT)

  腎臓は後腹膜臓器であるため、後腹膜血腫として現われ、腹腔内出血を来たすことは少ない。多少の破裂や挫傷があっても保存的に経過を観察出来ることが多い。急いで処置を行わなければならないのは、腎茎部損傷・増大する後腹膜血腫・多量の血尿である。腎茎部損傷は造影CTにて腎の描出がないことで疑われ、腎動脈造影にて確認される。多くの場合が、外膜は保たれているが、内膜損傷により血流障害を起こしていることが多く(intimal tear)、手術にて腎血管再建を行うことにより修復可能である。増大する後腹膜血腫・大量の血尿には腎動脈造影を行い、Extravasationが認められれば、スポンゼル細片による血管塞栓術の適応である。止血を行い、バイタルが安定した後に破裂腎をどうするかを考える。尿瘻によるurinoma形成に対してはドレナージを行うことで対処できることが多い.ドレナージをGerota fascia内に確実に入れると感染を起こさない.

尿道損傷

  骨盤骨折のうち、恥骨結合部を中心とした骨折で、血尿を伴う場合に後部尿道損傷が疑われる。バルーンカテーテルが抵抗なく入ればよいが、抵抗がある場合には無理して挿入せずにPeri-catheter Urethrographyを行う。方法は途中まで挿入しているカテーテルはそのままとし、外尿道口のカテーテルの横から、エラスター等を挿入して尿道造影を行う。尿道が不全断裂で、膀胱まで造影されれば、透視を見ながらカテーテルを膀胱内に挿入する。20Frのバルーンカテーテルに尿道用のスタイレットを入れ、挿入するとうまく行く場合がある。それを挿入できたらステントを兼ねて2週間はバルーンカテーテルを留置し、再度の尿道造影(Peri-catheter Urethrography)後に造影剤の漏れがなければバルーンを抜去する。完全断裂か、カテーテルが入らない場合には膀胱穿刺・膀胱瘻形成を行う。膀胱が充満するのを待って、恥骨上より、イングラムカテーテルを挿入し固定する。1週間すれば普通のバルーンカテーテルに入れ替えられる。尿道再建は骨盤骨折による出血が収まり、全身状態が改善してからゆっくり行う。

  会陰部の打撲により前部尿道断裂を来たすことがある。この時も同様の尿道造影を行い、バルーンカテーテルが挿入できれば、2週間は留置し、挿入できなければ、膀胱穿刺を行い、出血が落ち着いてから、会陰部を切開して尿道再建を行い、バルーンを留置する。

膀胱破裂

  骨盤骨折に膀胱破裂を合併することがある。血尿が持続したり、血圧は良好なのに尿量が確保出来なかったり、膀胱洗浄にて洗浄液が帰ってこなかったり、腹水貯留があり、穿刺にて淡血性でBUNが高ければ、膀胱破裂を疑って膀胱造影を行う。腹腔内破裂であれば開腹しての膀胱縫合を要する。後腹膜への破裂であればカテーテル留置にて保存的に加療できる。

  酔っ払っていて膀胱が充満した状態で転んで腹部を打撲した場合など,単なる腹部打撲で膀胱破裂を来すことが有る.腹痛はあまり強くないが,腹水血尿を認める.穿刺にて淡血性の腹水が得られる.淡血性腹水血尿にて膀胱破裂を疑い,膀胱造影を行って確定診断を付けて開腹する.膀胱縫合は,まず全層縫合をマクソンなど吸収糸の連続縫合で行い,漿膜筋層縫合をサージロンなどの非吸収糸の結節縫合にて行う.


腹部刺創・切創の場合

  腹部刺創においては、傷が腹膜まで達しているかどうかは開腹の基準にはならない。あくまで持続する腹腔内出血と腸管損傷が開腹の適応である。

  傷口から大網のみが出ている場合には、大網を消毒して腹腔内に押し込むか切除し、腹膜-筋膜を縫合して経過を観察してよい。しかし腸管がはみ出している場合には統計的に腸管損傷を高率で伴うため、開腹したほうが安全である。また来院時に出血性ショックを伴うものは基本的に開腹する.出血が持続している可能性が大であるからである.

  果物ナイフ・出刃包丁の場合は、皮膚創は大きくともあまり深部に達していない場合が多いが、刺身包丁の場合は皮膚創は小さくとも深部に達していることが多く、多数の腸管・腸間膜を損傷していることが多いため、要注意である。創内に指を入れ,筋膜損傷の程度を調べる.皮膚創に対して筋膜の損傷が少なければ刃先のみしか腹腔内に入っていないと判断でき,保存的に経過を観察できる(出刃包丁の時など)が,筋膜の損傷が皮膚創と同じ位大きいか,それより大きければ深部まで達している可能性が高く,開腹したほうが良い.筋膜の損傷は出来れば縫合する。その時縫合のために創が大きくなっても仕方ない。

  腹部の所見が取りにくい泥酔者や精神障害者などの場合には、腹腔内出血やある程度の腹部症状があれば開腹するほうが安全なこともある。腹水があれば出来るだけ腹腔穿刺を行い、腹水の性状を調べる(アミラーゼ・白血球数の上昇で腸管破裂が疑われる)。


腹部銃創の場合

  腹部銃創は原則として全例開腹しなければならない.また経過を見ているうちに出血性ショックになることもあるため,出来るだけ早く全麻下に開腹する.開腹時にはまず出血点の止血を行い,腸管破裂部を腸鉗子ではさんでそれ以上の汚染を遮断する.それから弾道を詳しく調べ,後腹膜を通過しているときは腸間膜等を剥離して尿管等の後腹膜臓器の損傷の有無まで詳しく調べておかなければならない.また脊柱などに当たり弾道の方向が変わることがあるため,注意して調べる必要がある.


5.胸部外傷

  胸部外傷で問題になるのは、肋骨骨折に伴う諸問題、血気胸の処置、肺挫傷およびそれに伴う気管内出血、心タンポナーデなどがある。

肋骨骨折

  通常の肋骨骨折では、疼痛管理のためのBast bandは原則として着けないほうがよい。呼吸運動を抑制して無気肺・肺炎発生の原因となるからである。疼痛管理は十分な量の鎮痛剤を使用するか、肋間神経ブロック・Interpleural Blockを行うことにより、呼吸運動を妨げないようにしながら行う。

  多発肋骨骨折にて、Flail chestを来たし、著しい呼吸困難を訴える場合や自発呼吸にすると肋骨の変形が強くなる場合(胸部CTで確認)には、経鼻挿管を行い、鎮痛剤・鎮静剤を投与しながらPEEPをかけての調節呼吸を行い内固定を行う。1〜2週間の内固定で通常は十分であるが、Flail chestの状態が著しければ、Judetのステイプルを使用しての肋骨固定を考える。

血気胸

  肋骨骨折により血気胸を来たしてきたら、中腋窩線より背部に向けて大径(24〜28Fr)の胸腔チューブを挿入する。胸写上は気胸のみであるかのように見えても外傷の時は必ず、いくばくかの血胸を伴っており、血気胸と考えて対処するほうがよい。また皮下気腫を伴うときは胸写上は気胸が無いように見えてもいくばくかの気胸を伴っているため(胸部CTを撮れば確認できる),注意深い観察が必要である.

  血胸の排液量が100ml/day以下となったら胸腔チューブを抜去できる。その後に溜まってくる滲出液は坐位にて背部よりエコー下にハッピーキャスにて穿刺排液すればよい。血気胸で手術適応となるのは100ml/h以上の出血が5時間以上続くもの、若しくは短時間の間に1000ml以上の出血があり、かつ出血が持続しているものである。また主気管支の損傷などで、空気漏出が著しいものも手術適応となる。

肺挫傷・肺出血・肺内血腫

  肺挫傷があり、血痰を来たしてきたら、一般的な止血剤投与、抗生剤投与を行うが、血痰の量が多く、血液ガスの結果が悪ければ経鼻挿管を行い、PEEPをかけての調節呼吸にて気道内圧を上げて止血を計る。それでも止血しなければ、気管支動脈からの出血が考えられるため、緊急血管造影-気管支動脈造影を行う。出血源が不明であれば、ダブルルーメンの挿管チューブに変えて、片肺を犠牲にして止血を計る。それでも出血してくる例には手術を考慮する。肺挫傷による肺内血腫は感染予防さえ行っていれば自然に吸収されるため、出来るだけ保存的に加療する。肺挫傷時の輸液は少なめとし、間質性の浮腫を起こさないようにする。
  胸部刺創などで,急激に大量出血した場合,出血した血液が凝固し,凝血塊を形成することがある.これを凝固血胸というが,凝固血胸(clotted hemothorax)は胸腔チューブにては吸引できないため,小開胸にて直接除去しなければならない.

心タンポナーデ

  左前胸部刺創・前胸部打撲、心窩部打撲の際には心タンポナーデの可能性を絶えず考えなければならない。腹部エコーにても心タンポナーデの存非は診断がつく。受傷が前胸部であり、血圧低下があれば、中心静脈圧を測定し、その上昇があれば心タンポナーデの可能性が推定できる。心タンポナーデがあれば、心窩部の剣状突起左縁もしくは胸骨左縁より、エコーガイド下に側孔を付けた14Frの中心静脈用のカテーテルを心膜内に挿入し、持続ドレナージを行う。教科書的にはエラスターなどで穿刺するように書いてあるが、抜け易いために持続排液のための固定が難しく、中心静脈用のカテーテルの方が経験上は良いと思われる。大抵はドレナージさえすれば血圧は改善するが、出血が持続するときには手術の適応となる。その時は胸骨縦切開を行って、止血しなければならない。心房からの出血はサテンスキー血管鉗子にて挟みプロリンの連続縫合を行うが、心室からの出血の場合には損傷部を指にて圧迫止血しながら、プレジェット付きのプロリンにてマットレス縫合を行う。

外傷性横隔膜破裂・ヘルニア

  胸腹部の打撲にて横隔膜が破裂することがある。左側に多いが、右にも起こりえる。臓器が脱出すると、心窩部痛や呼吸困難を訴えることがある。胸写にて横隔膜と肺との境界がはっきりしなくなり、血胸も起こってくる。胸写を見るときは横隔膜ヘルニアの可能性を考えながらチェックする必要がある。胃などの管腔臓器が脱出すると、胸写にて肺内に管腔臓器が明かになる。受傷後早期であれば開腹にて処置を行う。上腹部正中切開がよい。横隔膜の処置が腹腔内からで十分出来ることと、他の腹腔内臓器損傷の検索が出来るためである。


6.挫滅症候群(crush syndrome)

診断・治療

  長時間の骨格筋への圧迫が原因となる.阪神大震災で有名になったが,アルコール中毒や睡眠薬中毒などで同じ姿勢を長時間続けた場合などにも起こりえる.圧迫が解除された後,その骨格筋に浮腫・腫脹が生じ,全身的には脱水・高カルウム血症を来す.診断はCPK値の異常な上昇検尿(尿潜血が強陽性)にて付けられる.ミオグロビン尿も高度になるとWine Red色を呈するようになる.脱水の補正とミオグロビンやカリウムをWash outする目的で,大量補液(生食がベストか)・強制利尿を行うが,すでに腎不全が完成していると,適度な補液に切り替え,後は血液透析を行う.ミオグロビン尿に伴う腎不全は一過性であり,しばらく透析を続けていると腎機能は改善してくる.

Compartment syndrome・筋膜切開

  骨格筋の腫脹・浮腫の結果としてCompartment syndromeを起こしてくる.大腿や上腕ではあまりCompartment syndromeを起こさないが,下腿・前腕ではCompartmentがいくつかに分かれており,Compartment syndromeを起こしやすいため,要注意である.筋膜内の組織圧が40mmHgを超えると筋壊死を来してくるため,減圧のため筋膜の切開を行う必要が出てくる.

 【組織圧の計り方】

  動脈ライン用の圧ラインをモニターに接続し,圧ラインの先に直接18番針を付け前脛骨筋のAnterior Compartmentを穿刺して留置する(テープ等で固定する).ただ持続的に測定すると圧ラインからの補液が少量ずつ組織内に注入され,圧上昇の原因ともなりえるため,30分〜1時間毎に接続をonにして圧を計り,それ以外の時はoffにしておく.


7.熱傷

熱傷の局所管理

  小範囲のII度熱傷であれば、ソフラチュールガーゼを付けるだけでもよいが、熱傷範囲が広くなってくると、エキザルベガーゼを塗布する。SDBであれば2週間以内に上皮化するため、そのまま上のガーゼを変えるだけで良い。DDB若しくはIII度であれば、1週間でエキザルベガーゼを除去し、ゲーベンクリームに変え,感染を押さえながら植皮を行う.

熱傷の循環管理

  小範囲熱傷でも一応点滴を確保し、L/Rを負荷し、尿量をチェックする。有る程度の広範囲熱傷及び深部熱傷であれば中心静脈ライン・膀胱バルーンを挿入し、厳重な輸液管理を行う。
 L/Rの負荷は尿量が30〜50ml/h以上(1ml/kg前後)・CVP5cmH以上10cm以下を目標にする。大量のL/R負荷を要する重症熱傷の場合には8〜12時間置きに採血を行い、脱水・血液濃縮が無いかどうかはHctの値の変動で、またFFP投与時期の判定はT.Pで行う。原則としてFFP投与は受傷24時間後より行うが、T.Pが低下して4.0mg/dlを切るようであれば、受傷後8時間を過ぎたらFFP投与を開始する。できたら総蛋白が5.0mg/dl以上を維持するようにする。


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