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イギリスの暮らし

 イギリスでは入国に少し苦労させられたが、やはり研修旅行ともなるとあれこれ苦労は多いものだ。最初の一週間は、ロンドンの南西部郊外に位置するタッドレイコートの研修所で、事務系の講義や視察が行われた。建物も庭も非常にきれいなところで、朝の散歩がたまらなく気持ち良かった。講義は我々の英語力を考慮しているせいか、ゆっくりと簡単な単語で話してくれたが、まあそれでも半分も理解できないから、ひたすら気の毒であった。部屋は個室でバスタブこそないものの、シャワーは付いている。毎日の掃除も行き届いており、いつも果物やミネラルウォーターが置いてあった。余談になるが、スターフルーツを見たのはこの時が初めてだった。どういうものかわからなくて手を出さなかったのが悔やまれる。部屋に帰るとレモンのかけらの入った一杯の水が置かれてあったのだが、何も知らずに毎日飲み干していたら、フィンガーボールだった。ワイングラスに入っているから、ことさら紛らわしいのだ。

 あまりおいしくないと言われているイギリスの食事だが、さすがに量は十分すぎるほどで、ウェイトレスサービスの朝食、夕食のどちらも食べきれないほどだった。朝食のシリアルには結構おいしいのがあって、後日スーパーで手に入れてテキスト類と一緒に日本に送ったほどだ。午後のティータイムに食べるスコーンと言うお菓子があるが、これにバターやジャムを山のようにつけて食べるのも英国流らしい。最初のうちは珍しさもあって何にでも挑戦していたが、滞在の半ばを過ぎる頃から胃が受け付けなくなってきた。無性にお茶漬けとかお粥なんかが食べたくなる。研修所には小さなバーがあり、食事の後はそこでビールでも飲みながら歓談したりビリヤードに興じたりするのだが、ビールが冷えていないことが多くて閉口した。1日中気を張りつめているから、少しのアルコールで睡魔が襲う。寝ているときが一番幸せだったのかも知れないが!

 一週間のタッドレイコート滞在中、ウィンチェスターやウィンザー、オクスフォードにバスで視察に出かけた。街並みを見ながら散策するだけでも貴重な経験になるのだが、教会の見学には視察ごとに出かけたものだ。日本で神社や寺に行くのと同じ感覚だろう。見た目は同じだが、カセドラル(大聖堂)とチャペル(礼拝堂)と言う違いもあるらしい。言葉の壁はあるものの、買い物も結構おもしろい。値札さえあれば、それほど会話することもなく欲しいものが買えるのである。ただ外食の場合は、メニューを正しく理解しないと大変なことになるので、辞書と神経だけは余分に使った。一度パプにも連れていってもらったが、さすがに雰囲気は素晴らしい。ろくに会話も出来ないのに、店の雰囲気に難なく溶け込むことが出来た。

 後半の一週間は、ヨーク近郊のバーンホール研修所で主に技術的な実務の研修が行われた。タッドレイではデスクワーク中心の研修であったので、バーンホールでの普段から慣れ親しんでいる配水管や給水管の現場研修は、それほど肩の力も入らずに楽しく受けることが出来た。バーンホールは以前ホテルとして使われていたもので、伝統的な英国式庭園が非常に美しい。滞在の疲れも少しずつ現れていた頃ではあったが、同時に生活にも慣れてきていたので、夕食後の時間の過ごし方にも余裕があったように思える。その頃には日本から持ち込んだタバコも底をついて、割高なマルボロを買わざるを得なかった。イギリスはタバコの税率が高くて、日本の倍近くの値段なのである。

 バーンホールでの研修が終え、長くて短かった英国研修もなんとか無事に終了した。最後の講義の後で、担当者や講師と一緒にシャンペンで乾杯したのだが、開放感と同時に言い様のない寂しさで、少し涙腺も緩んできた。帰国前にロンドンとパリで数日間を過ごすことになっており、通訳無しの珍道中でここからが本格的なハプニングの連続になるのだが、これはまたの機会に述べたいと思う。 

(00/7/26)