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壱岐のゼミキャンプ

 夏になると、ふと思い出すことがある。大学4年の夏に行った壱岐でのキャンプだ。楽しかったのかあるいは苦しかったのか、今となってははっきりと覚えてはいないが、良く思い出すくらいであるからインパクトが強かったことだけは間違いない。大学生活最後の夏休み、思い出づくりをしようとゼミの仲間で急にキャンプに行くことになった。夏だから海水浴も楽しめて、こういうことでもないと行けないところにしようと言うことになり、長崎県の壱岐にした。確かに島であるから、理由がないとまず行くことはないと思う。

 まずは車で宇部から福岡へ移動する。後で気が付いたことなのだが、移動に使った友人Hのサニーは、タイヤが異常にすり減っていた。ほとんどスリックタイヤみたいなものである。ところどころにゴムが無くなりつつあるところもあった。そんな車で高速道路をバリバリ飛ばしていたのだから恐ろしい。フェリー料金がもったいないので、他の車は福岡に置いてHのサニー1台を荷物運搬用に使った。いつバーストしてもおかしくないようなタイヤだったので、壱岐に渡って最初の行動は古タイヤ探しであった。

 キャンプ場は壱岐の北東部芦辺の海岸沿いにある。壱岐空港のすぐ近くだ。松林を抜けると白い砂浜が広がり、やたらと海が透き通っていて美しい。松林の近くにテントを設営して、早速海水浴を楽しんだ。海水浴に飽きると、今度はビーチパラソルと用意していた卓で麻雀だ。さすがにビーチで麻雀をやっているのは、我々だけであったが、通りがかりのギャラリーが多くて緊張する。それぞれの後ろで小さな歓声やため息の声があがっていた。海辺の麻雀は後にも先にもこの時の一回だけであったが、潮風に吹かれながら、なかなか気持ちの良いものである。夜はテントの中でロウソクを灯しながらの麻雀だ。麻雀牌をかき混ぜる音で周囲に迷惑をかけそうなものだが、キャンプ場の中も周辺も暴走族がたくさんいたので、その爆音の方がはるかに大きかったのだ。近くにテントを張っていた暴走族の兄ちゃんが、夜中に麻雀セットを借りに来たこともあった。

 滞在も2日目を過ぎると、周辺の状況もわかってきて行動も多岐に渡ってきた。この日のメインは、2人づつ組になってのナンパである。同行したメンバー以外知る人はいないわけだから、そんなに恥ずかしくもないのでそれぞれがそれぞれのやり方でナンパを実行していた。気持ちが軽かろうが重かろうが、そうそう上手くいかないのがナンパなのだが、案の定全員難破して(さむい?)帰ってきた。壱岐まで来てナンパも出来ないようじゃ山大生の沽券に関わると、再度挑戦したらかろうじて東京から来たと言うOL3人組が引っかかったのだが、我々の方が数としては倍以上なので、何をするわけでもなくただ写真を撮ったり、夜になって一緒に花火をしたくらいのものだ。後日写真を送ってやったら、向こうから仲間の1人を紹介して欲しいと言う内容の手紙が来た。白羽の矢が当たった院生のYさんは全然その気がなく、お断りの手紙を出したのも私だったが、アプローチを間違えると辛い目にあったりする。

 砂浜のはずれの空港の下には岩場が広がっており、潜ればサザエとまでは行かなくとも小さな貝がいくらでも取れる。しかしながら連中誰も潜れないのだ。仕方がないので1人で潜って、大鍋が埋まるくらいの貝を取った。苦労して取った貝だったが、連中何を考えたのか真水でゆがいてしまって、出来上がりはほとんど無味の状態だった。インスタントラーメンを大鍋で作らせると、汁気の多い焼きソバみたいになるし、滞在中の食事で一番まともだったのは、壱岐を出る前に行った港の食堂のカツ丼だけだったような気がする。

 参加した誰もがそれぞれに淡い期待を抱いて臨んだキャンプだったが、何事もなかったように過ぎ去ってしまった。変わったのはHの車のタイヤだけだったかも知れない。与論島や新島が、ナンパのメッカとなりつつある頃の話である。 

(00/7/27)