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九死に一生

 学生の頃はサイクリングで良く旅をしたものだ。主なものでは東九州プラス西四国、四国南部、北海道から日本縦断(未遂に終わった!)などがあるが、近場で日帰りハイクみたいなのも多かった。山口や宇部に住んでいた関係で、行き先は秋吉台や萩・津和野なんていうパターンがほとんどだったと思う。

 春だったか秋だったか、とにかくちょうど気候の良い頃のことであったが、友人数人と秋吉台に出かけた。山口からは峠を一つ越えなければならないのだが、まだそれなりの自転車を購入する前だったので、登りには一苦労させられた。帰りに秋吉台側から峠を登り、下り坂にさしかかってしばらく後のことであったが、猛烈なスピードで坂を下っていると他の連中が降りて来る気配がないのに気が付いた。

 どうしたのだろうと下りながら振り返ること数秒間、顔を前に戻すと道路脇の側溝が目の前にあった。長い直線の下り坂だったので、スピードは少なくとも時速50キロ以上は出ていたと思う。既にハンドルでの立て直しは不可能で、次の瞬間には前輪から側溝に落ちていた。不思議なもので落ちる前の一瞬で、それまでの人生のこと、両親のこと等々がいわゆる走馬燈のように巡っていた。状況的には運が良くて大怪我、最悪の場合は頚椎骨折で死ぬことも瞬間的に覚悟していたのである。

 落ちてから自分の身体が静止するまでのことは良く覚えていない。気が付くと側溝と山の斜面の間のわずかな隙間に倒れていた。不思議なことに痛みも全く感じない。既に違う世界に来たのかと勘違いしたほどだ。冷静になって検証してみると、自転車が落ちて身体が投げ出された後、勢いで側溝と斜面との間を受け身みたいに数回転したようだ。奇跡的に服が少し破れた程度で怪我は全くなかった。代わりに自転車はあちこち曲がって悲惨な状況になっていたが、身体さえ無事であれば言うことはない。しばらくして降りてきた連中に話したが、怪我がないので即座には信じてもらえなかった。

 ドラマチックに考えれば、あの時一度は死んだ身だからと何事にも頑張れるはずなのであるが、余程のことが無いと思い出さない出来事でもある。それはともかく車にしても自転車にしても脇見運転は禁物である。

(00/5/21)