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瀬高ユース

 大学4年の6月のことだったが、友人Hと一緒に福岡県の柳川や甘木に行ったことがある。もちろんHの中古サニーに乗ってである。泊まったのは柳川の隣の瀬高にあるユースホステルだった。泊まり客は多からず少なからず、食後のミーティングにはちょうど良いくらいの人数で、ギターを弾きながらフォークソングをみんなで歌うと言うお決まりのパターンである。全員気合いが入り過ぎていたせいか、消灯時間を過ぎても歌い続けて早く寝るように何度も促された。

 翌日はユースで意気投合した女性2人と甘木に行くことになった。甘木は秋月藩の城下町だったところである。当時は手鞠を作る90歳を越えた名物おばあちゃんが存命していた頃で、工房で作る様子も見学できたりした。昼食は城下の精進料理が有名なお寺でコンニャクだの何だのと食べては見たが、食べ盛り?には足りないようだ。一通り甘木の観光を終えて、女性を瀬高ユースに送り届けてから柳川に向かった。

 柳川を散策していると、所々に名物の鰻の店があった。相変わらずの貧乏旅行なので、鰻だけは我慢しようと2人で決めていたのだが、おいしそうな匂いが漂ってくると我慢も限界を超えてしまった。夕暮れ時の水郷柳川、入ろうかやめようかと散々悩んだ末についに意を決して老舗「本吉屋」の暖簾をくぐったのだが、奥の方から「すいませ〜ん。今日は終わりなんですよ。」と言う非情な声、こんなことなら悩まずにさっさと入れば良かったと悔やまれたが後の祭りである。仕方がないので、店の前で記念写真だけでも撮ろうと言うことになったが、店から出てきたばかりの爪楊枝をくわえ満足そうな顔をしたおっさんと一緒に写る羽目になってしまった。つい先日、出張で柳川に行く機会があり今度こそはと気合いだけは入っていたのだが、またもや鰻には縁が無く昼食はうどん定食だった。

 甘木に同行した女性はそれぞれが一人旅であったが、片方は熊本から結婚前の最後の独身旅行、もう一人は困ったことに駆け落ちの途中であった。駆け落ちの相手が佐賀だか長崎だかの実家に説得に行っている間の「待つ女」だったのだ。不倫のあげくに2人で大阪から九州に逃避行に出たらしい。そんなことは柳川を離れるまでまったく知らなかった。Hが甘木で身の上相談みたいな感じで話を聞いたそうなのだが、帰りの車の中で女性が思い詰めていたのが心配なのだと話すので、急遽瀬高に引き返した。ユースに着いてみると、心配して後を追いかけてきた女性の父親に連れられ、駆け落ち相手と共に大阪に帰っていったとのことであった。結局引き返すほどのことでもなかったのだが、万が一不幸な結果に終わると寝覚めが悪い。住所だけは聞いていたので、後日瀬高と甘木で撮った写真を送ってあげたのだが、Hに届いた礼状には、不倫相手の妻から300万の慰謝料を請求されている旨が淡々と書かれてあったそうだ。その後女性がどうなったのか今となっては知る由もないが、きっと逞しく生きているに違いないと思う。あの複雑かつ切迫した状況で、知らない大学生と甘木観光に行ったほどの人ですから! 

(00/2/21)