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脳の話

 就職試験の健康診断で、脳波の検査を受けたことがある。さすがに近年はやっていないようだが、当時は就職の可否で頭が一杯で何のための脳波なのか考えもしなかった。ちょうど卒業研究が追い込みにかかった忙しい頃だったが、早朝に予定されていた検査に間に合うように、前日の夜遅くに帰省した。

 慢性的な睡眠不足もあったのか、やっとのことで起き出して病院に向かった。寒さの厳しい頃ではあったが、検査室の中はちょうど良いくらいに暖房が効いており、ベッドに寝かされ毛布をかけられると、すぐに睡魔が襲ってきた。おまけに部屋は薄暗い。看護婦さんからも「眠らないように!」と言われてはいたが、この状況では眠らない方がおかしいのである。意識のはるか彼方で「眠るのは我慢してくださいね」と言う検査技師の声が聞こえたような気がしたが、とうとう検査が終わるまで目が覚めることはなかった。

 それから数日後、案の定脳波の再検査を行う旨の通知が来たのだが、2回目はたっぷりと睡眠をとって臨んだのは言うまでもない。それにしても脳波は何の判断材料だったのだろうか!

 92年の秋のことであったが、朝起きたら左手が痺れていた。タバコを手にしても、上手く口元に持っていけないのだ。これはおかしいと思い、もう一度寝床に戻ろうとするが、今度はまっすぐ歩けない。いよいよ心配になって布団の中で安静にしていたが、その後も頭痛が続いたので、翌日病院でCTを撮ってみたら脳梗塞と言われた。ごく軽いもので薬を使う必要もないと言われたが、タバコだけはやめるようにとのことだった。それまで何があってもタバコだけはやめるものかと常々思っていたのだが、そんな症状になってみるとさすがに恐ろしい。15年もの間、毎日30本近く吸っていたのだから、やめるときの苦しさは想像を絶するものであった。当たり散らしてばかりいて、家族には本当に申し訳ないことをした。

 

(00/6/10)