評論の広場9

内田 勝


R I I の 原 点

  放射線像研究通巻132号に小寺吉衛新会長の巻頭言が掲載されました。何度も何度も熟読しました。おじいちゃんがRIIの会長をお引き受けしたとき、立入先生から戴いた巻頭言を思いだし、引き継がれた伝統に嬉しくて安堵する思いでした。放射線イメージ・インフォーメーション研究会(RII)の創成期については、評論の広場3の金森先生の記述に詳しく述べられています。ここでは当時の各先生方の期待に充ちた評論を掲載して、古きを尋ねようと思います。

放射線像の研究

-レスポンス関数-

第1巻  1964〜1966

大阪大学教授前会長

立入 弘

  3年前の春に、それまでこの方面に興味を持ち熱心に研究を進めて来た内田君などを中心として、主として診断用のX線像を情報理論的にいろいろの角度から解析し、数的な根拠と理論を求める人達の集いとしてのRIIが始められました。始めは局外者には非常に難解であり、中々とっつき難いのを承知の上で熱心な会員の間で、ひたむきに研究が続けられ、次々と報告が出されてきました。しかもこうした研究運動は、初めの会員以外の人々に興味をかきたて、さらに技術上の躍進的改善を齎すために、この方面での研究が必要であるという認識が広く高まってきた結果、会員も数を増し、研究成果もあがったので、この機会に今迄の会の業績なり研究資料なりを、纏めて一冊の本とし、頒布することになりました。会の発足当時、多少のお世話をした私として誠に喜ばしく思います。晴れの結婚式とまでは行かないが、娘の大学に入ったほどの喜びを感じる次第です。今後の発展を期待してやまないとともに、この小冊子が同学の皆様の研究上のお役に立てば、会員諸君ともども私達の幸いとするところであります。

 

東京医科歯科大学教授

日本医学放射線学会総務理事

足立 忠

  近来X線診断は目でみて診断する段階から像を器械で測って診断する方向へ移りつつありとも言えるが、最近では従来光学や通信方面で使われていた情報理論を導入しレスポンス関数の手法を用いてX線像の成立に至る諸因子を分析検討しようと言う研究が盛んになりはじめた。

  例えばX線像の成立迄を考えると、線源の形(焦点)、X線の線質、被写体、影像表現の方式即ちフィルム、増感紙、蛍光板、I.I.、XTV、ゼログラフィー、ロゲトロン等々の数々の要因が存在し、診断を行なう場合には更に読影と言う過程を経ることになるが、之等の個々の要因が像の成立に対し如何に作用しているかは上記のレスポンス関数を応用することにより適切に解明せられ更に之等多くの要因が総合された最終段階に対してもこの方式が適用され得るわけでX線像の成立や改善に関する知識の向上には大いに役立つわけである。

  本研究会はこの方面に関心のある日本医学放射線学会会員を中心として外部からも、光学、電気通信関係の応用物理の方々の参加を得て約3年前から発足し年間数回の研究会合をもちつつ益々隆盛の機運にあることは誠に嬉しい限りである。今回ここに今迄の成果の一応のまとめを発行するに至ったが之により多少とも関心をよせる人々の参考ともなり又今後の進むべき方向に対する示唆ともなれば幸せである。この研究会の発展を祈るや切である。

昭和42年2月10日

 

東京大学教授

宮川 正

  放射線診療にたずさわる医師には概して、物理、数式が幾分好きな人が多いはずであるが、ここ数年来医学分野にとりいれられつつある情報理論及びその応用は、放射線医学分野が必ずしもその先頭をきっているとはいえない。従来、放射線医学における比較的単純な物理学あるいは数理でガッチリしたお城が築かれているためでないかと最近考えている。たとえばX線像は古い歴史をもったコントラスト、コントウールでわれわれの頭はかためられて一歩もでられない感がある。最近、痛感されることはX線像の基礎編などを執筆するときである。少し詳しく蘊蓄を傾けようとすると、わかりきっていると思っていたコントラスト、コントウールも十分には理解していないようである。とどのつまり、ある場合はコントラストとコントウールを分けて考えることはできないと幾分ごまかしですましているように考える。第一巻のレスポンス関数あたりがこれらの点を解決してくれるらしい。小生の漠然としたレスポンス関数は、以上の程度の知識であるが、われわれの分野にはもっともっと使い道の広いものであるらしい。われわれの仲間が情報理論グループを作り、基礎臨床分野に漸次、新しい方向を築かれることを大いに期待すると同時に、古い頭のものも、ゆっくり勉強していきたい気持である。小生もこのグループの研究会に数回出席して一生懸命に理解しようとして傾聴し、質問もしたがなかなか難しい。しかし、放射線医学分野においてはいずれは大部分のものにある程度常識的な知識にならなくてはいけないものだと常々感じている次第である。

  この点ではまず第一にこのグループを中心として啓蒙活動をしていただき、われわれの常識を漸次新しいものと入れかえたいように望んでいる。

  尚、このグループもまず手初めとして、極く基礎的なことからスタートされていると思われるが、漸次簡単なものから応用−臨床分野に着手していただき、情報理論応用の有難味がわかる時代が早からんことを望んでいる。情報数の非常に多過ぎる臨床医学においてはこのためには、情報分野的にみた多くの専門の方々の強力な協力が必要と考える。

 

名古屋大学教授 会長

高橋 信次

  放射線科の医師にとってX線診断は大切なことである。フィルムの上の陰影を診て病名をあてるのがX線診断だけれども、これには永い経験が物を言うと考えられている。永い経験のなかには沢山の症例に出逢うということも含まれる。しかし若し症例が多いことのみが診断力の向上に必要なら、日本の放射線科は米国の名もない放射線家にもとてもかなわないことになる。

  私は症例を多く見ることも大切だが、同時に個々の症例を深く考えることが、所謂経験のなかに含まれるものだと思う。一つの症例であっても先ずそのX線像が診断に耐える様に撮れているかどうかの画質の吟味からまずかゝるようなやりかたが本当だと私は考えている。この画質の評価ということであるが最近MTFという概念が言われる様になり、これは物理学関係の方でないと判りにくい様な数式をフンダンに使って、医者には一寸煙たい気がする。しかしこれが画質を論ずる最新のしかも最も大切な要因を含んでいることは疑いない。いくらむずかしいといっても、画質が診断用のX線像を問題にする限り医者がこれを理解できない筈がない。又、医者が判らないからといって、そのまま数学者、物理学者のグループで事柄をすすめ、最も深い関係のある当事者の発言のない数式、理論の討論は往々にしてあそびになる惧れがあると私は思っている。この意味で、MTFをとりあげ、且つ医者−私の様な無精者迄−を引っ張り出して、この会を盛大にして行っている内田さんの御努力に敬服し、この研究が一つに纏め上げられるこの機会を歓迎し、この研究成果が広く参考にされることを祈り度い。


  以上は3年間の研究業績を纏めて第1巻を発行した時に、戴いた[序]です。執筆者は当時の医学会における錚々たる現役教授の方々です。今読んで見てもRIIに対して如何に多大の期待が寄せられていたか想像に難くありません。

  同時に述べられた[まえがき]を次に掲載して置きます。これは内田が原案を作り、当時の編集委員の賛同を得たものです。

 

まえがき

 

  今回、RII研究会の研究成果をまとめて第1巻を発刊する運びとなったので、この機会に当研究会成立のいきさつと発展のあとをふり返ってみたいと思う。

  本会発足の端緒となったのは、昭和33年10月X線研究協議会資料75及び放技誌、34年8月号の内田(阪大)の論文「最大情報量撮影について(第1報)」である。ここで内田は通信工学で用いられているShannonの情報理論をX線撮影系にとり入れることを示唆した。それより3年を経て、金森(京都工芸繊維大学、当時島津)が日医放誌、37年12月号に「X線写真の情報量の表示法(第1報)」を発表した。その直後、内田は金森をたずねて、同じテーマの研究者を得たことを喜び合い、意気投合し、互いに励ましあったものである。

  一方、光学では、これより先に、昭和31年に応用物理学会光学懇話会でレンズ性能委員会が設立され、通信理論の一部であるフーリエ解析の手法を用いたレスポンス関数の研究が始まっていた。応用物理学会誌、33年4月号には「情報理論と光学」が特集としてとりあげられ、研究成果の集大成として、36年にはカメラ工業技術研究組合のCircularとして「写真レンズとレスポンス関数」が出版された。この本は現在でも、なお、レスポンス関数の入門書として広く読まれている。

  内田はこの光学における輝かしい成果に注目し、37年より、レスポンス関数の研究をはじめ、、その後、光学のこの分野で指導的立場に居られた大阪工業試験所(現北大教授)村田和美先生の指導を得た。放射線分野では、津田、土井第1論文もそれぞれ、37年、38年に公表され、放射線に通信理論を適用しようとする機運はすでに熟していた。

  38年10月に米子で開かれた医放学会物理部会は忘れ得ぬ思い出である。ここで、内田と金森は前記の研究発表をおこなって、矢つぎ早の鋭い質問攻めに会って、散々にたたきつけられた。これを機会に奮起一番、当研究会の設立を思い立ったのである。

  当研究会の設立準備会は38年の暮れも押しつまった12月21日に、阪大立入教授(前会長)を代表者として開かれた。集まったメンバーは、光学のレスポンス関数の研究者として村田先生、佐柳(キャノン)、畑中(富士フィルム)、放射線の分野からは、竹中(東大)、木村(京大)、津田(島津)、内田、金森、さらにフーリエ解析でユニークな研究をおこなっている井上(東芝)であった。

  その後、各会員とも勤務先でこの研究を行なうについて多少の問題があったようではあるが、その困難を切り抜けて、第1回の研究会(39年2月、阪大)を開催し得た時の嬉しさは今でも記憶に新しい。幸いにして、設立当時の杞憂をよそに、ますます会員数は増加し、研究発表会も東京、大阪、名古屋をもちまわって回を重ね、2月4日には第12回まで数えることができた事は喜びに絶えない。特に、印象に残っているのは、昨年(41年)9月の金沢の物理部会でシンポジウムにとり入れられた事と、12月に入江先生のご好意で九大で開催して九州地方にPRできた事である。また42年の放技学会大会では、ついに、「放射線とレスポンス関数」が宿題報告として採用された。

  一方、国外に目を転ずるに、1962(昭和37)年のP.H.Morganの論文(A.J.R.Vol.88,No.1)をかわきりに、放射線に通信情報理論を適用した論文が続出している。39年に東京、京都で国際光学会議が開かれた時には、X線関係の論文が4件提出され、佐柳、土井、金森も研究発表をおこなった。この時には、京都でX線写真のInformal Meetingが開かれ、当研究会の会員も多数参加している。この席で、日本、欧、米の3グループの情報交換の話がまとまった。また、1965年(40年)のローマ学会では「Information Theoryの応用」のSectionが設けられ、土井が論文を提出した。国際的研究機関はChicago のProf.Moseleyを中心とするChigo Groupである。これは、欧、米の光学と放射線の研究者で構成され、第1回のMeetingが1963年、第2回が1965年にChicagoで開催された。第2回の会合には佐々木、佐柳、土井が参加している。

  かくして、国内でも国外でも、通信情報理論を放射線像に適用し、合理的な像伝送系を作ろうと言う機運が高まってきている。しかし、本巻の副題が「レスポンス関数」となっていることからもわかるように、現在は、フーリエ解析の手法が主流を占めている。ここで、もう一つ、欲を言うならば、今後は確率・統計を基礎とするShannonの情報理論を取り入れねばならないと言うことを強調したい。これこそ本来の情報理論であり、本研究会成立の端緒となっている理論である。フーリエ解析の手法は、連続系の情報量を算定するにあたって副次的に導入されたものであって、本来の情報理論ではない。Shannonの情報理論によってこそ、的確に情報伝達系としての取り扱いが可能になり、通信工学で得られている多くの輝かしい成果を放射線像にも適用できるようになるからである。

  以上のようにして、ここに研究資料集第1巻を発行できるようになったことはわれわれ会員はもとより、本研究会の大きな喜びである。

  今後、さらに第2巻第3巻と回を重ね、内外に誇り得る研究業績が積み上げられることを期待して止まない。

 

編集委員 伊藤  宏

内田  勝

金森 仁志

木下 幸二郎

佐々木 常雄

竹中 栄一

津田 元久

土井 邦雄

野田 峰男

高野 正雄

 

ついでに編集後記も書いて置きましょう。

 

編集後記

 

  ここに資料第1巻の編集を終わった。本研究会独自の力でこれを発刊できることは心から嬉しい。歴史的背景、会の成り立ち、将来の展望などは序文およびはしがきに明らかである。

  いまに至って思いおこすのは、東大理学部本田教授が主宰しておられたX線研究協議会である。1947年から1960年にわたって研究が続けられ、その間5巻の資料集を発刊している。その当時、X線方面の数少ない研究者が2ヵ月に1度、東大理学部に集まって議論をたたかわせた。小生も委員の端に加えられ、本田先生に聞いて戴きたいために一生懸命研究し、乏しい財布をはたいて上京したことを覚えている。実にいい研究会であった。このように純粋で、静かな学問的雰囲気に包まれた研究会がたまらなくなつかしい。本研究会もかくありたいと願うものである。

  医学と工学の境界領域を開拓するには、大きく分けて、2つの方法がある。1つは医学と工学を互いに翻約することであり、翻約者をそだてることである。翻約することは厄介で、面倒なことであり、後者に至っては、そのような人を遇するポジションがなく、したがってすぐれた人材が得にくいなどが隘路である。他の方法は、すぐれた医学者とすぐれた工学者がおたがいに歩みより一致点を見いだして協力することである。このためには医学者、工学者それぞれが独立して権威をもつことが必要であり、したがっておたがいの歩みよりの困難さも大きい。以上何れも困難な道であるが、本会は自然に後者の方法をとっているように思われる。

  本資料集の内容にしても、現在の基礎的段階では工学的な記述が大半を占めているが、2巻、3巻と研究が進むにしたがって、臨床的な記述が増加して行くであろうし、またそれを期待するものである。

  終わりにあたって、本資料集発刊に際し、かくれた縁の下の力もちをご紹介し労を慰したい。それは本資料集の印刷全般を献身的に引き受けて戴いた渡辺竜史氏である。氏は齢還暦を過ぎられたばかりであるが、「某一流新聞は日本の国語教育を混乱に陥れている元凶である」と新聞社にねじ込むほどの熱血漢であり、それほど現代国語の蘊蓄の深い人である。また、「著述作品の品位を保つ上に印刷屋は大いに貢献している」とまでいえるほど、この仕事に誇りを持っておられる。誠に嬉しい限りである。本出版にあたって、実に残念なことには、時間がなく、送りがな、活字、図面などのそれぞれの統一に氏の力を充分発揮して戴けなかったことである。また、阪大技師学校今川房之助、津堅房弘両講師および、木村多賀子事務員には忙しい本務のかたわら、出版に奉仕的な協力を戴いた。ここに厚く感謝する。

(内田 記)

  以上のように放射線医学会の大いなる期待と激励によって始まったRIIでした。また会員の意気込みも素晴らしく毎回新しいテーマの研究発表が為されました。余勢を駆って第2巻が発行されました。


放射線像の研究

-解析と評価-

第2巻 1966〜1968

名古屋大学教授

高橋 信次

 

  RIIのこの2年間の研究資料集が製本されて出る。これは1967年に次いで第2回目のものである。放射線のレスポンス関数に関する貴重な書籍である。

  私はこのRIIの会長ということになっている。通例この様な学会若しくは研究会の会長というものはその学問に対して深い理解をもち強い行動力を持っている人が勤めるのが普通である。ところが残念なことには、この会長はそうではない。務めようとする意欲はあるのだが如何せん能力が追つかない。ただ研究者の仕事の邪魔をしないことのみ念じている始末である。

  無能な親の家に孝子出づという譬えは正しいと思うのは、この研究会の会員は会長の短所を補って余りある程実に熱心勤勉である。

  私は医者の会のみならず、いろいろの専門家の会合に出席した経験があるが恐らくこの会程熱心なのはないと思われる。

  私は杉田玄白、前野良沢を中心とした蘭学の研究の集いを時々想う程である。私は時々これ程熱心にこの研究をやっているのに世の中ではー放射線医も含めてーあまり知ってくれないのに不満を持っている。

  それだから、この様な書籍が発刊されるのに特に喜びを感ずるのである。又、一方、も少しわかり易いものを出刊して、せめて放射線科医・放射線技師にこれらの人達の研究成果を理解し利用してもらいたいものだと念願している。

  初心忘るべからずという。今の研究意欲を長く持続して、この様な書籍が次々と発刊されることを希ってやまない。

 

日本医学放射線学会

総務理事 足立 正

 

  現今ではX線診断はすでに目で見て主観的に診断する段階から抜け出して客観的に測って診断する段階にすすんでいる。これによってその科学的価値は一段の進歩をとげ、より的確な方向に踏みこみつゝある。

  本書はX線像の成立に至る迄の諸因子について近来注目されつゝある情報理論を導入しレスポンス関数により分析的究明を行なったもので現時点では尚むしろ基礎的研究成果の集積の段階ではあるが研究の発展と共に之等が総合されて今後この領域における進歩発展に資すること甚だ多いと確信する。各項目の担当者はいづれもこの方面の新進の精鋭であるので今後の画期的発展をたのしみにしている。

 

東京大学教授

宮川 正

 

  放射線イメージインフォーメーション研究(RII)の成果が着々と発展していることは同慶に堪えません。X線像のごとく、物理的過程を主体として出来上がった白黒像は、すぐにでも情報論的に取り扱われるように考えていましたが、臨床レベルにはさらに一躍二躍の努力が必要のようです。しかしX線像成立の解析が、RIIにより着実にまた、従来の考え方より、より普遍性をもった理論をもって行なわれていることから、近い将来に各種の被写体へのX線像に応用できるものと確信しています。又、RI診断の場合はさらに、人体の代謝系の物理生化学的情報因子を入れた情報論的診断ができることを願っています。RIIグループの方々のますますの御努力を期待してやみません。

 

  第1巻と同様に、まえがき・編集後記も記録して置きましょう。

 

まえがき

 

  放射線像イメージ・インフォメーション研究会(RII)がこゝに「放射線像の研究 第二巻」を刊行に至ったのは、喜びに耐えない。

  1963年12月設立準備会を、1964年3月第1回研究会を、以後毎年4回研究会を開催、1966年4月には「放射線の研究−レスポンス関数−第一巻」を刊行した。第二巻には第9回以降第19回迄の研究発表を集録した。また第13回以降の研究発表の概要は研究会記事として会終了後会員に頒布されている。第一巻、第二巻とも研究発表を主として内容相互間の関係も十分といえないので、各編に解説を付け、これからこの分野に入らんとする人の指標とした。しかしこの分野には未だ解説書はなく、むづかしいという世評もあるので、当研究会で本年内に教科書の刊行も計画している。

  RII研究会は放射線像の研究解析とその応用に関しての成果を放射線医学の分野に利用できるようにし、その成果を必要とする人に提供することを目的としている。第一巻では研究初期のため、X線管焦点、増刊紙、フィルム、X線像など基礎的の発表が多かった。第二巻には粒状性や雑音とその影響、I.I、TV関係、特殊撮影、被写体のスペクトル、散乱線、測定系の解析、RI系への応用、情報量などにその特徴がある。

  目を多分野に転ずると応用物理の光学懇話会や(RIIの主たるメンバーは入会しているが)MEの像処理グループの研究との間に競合重複している所が少なくない。このような点からRII研究会の存在意義は何か?何を目的として何をなして来たか?将来いかにあるべきかについて昨年来「自己批判」を行ない、「RII研究白書」として放射線像研究の目的、研究の現況、将来の見通しなどにつき遠からず、世に訴える予定である。

  本年は国際放射線学会も開催され、Image qualify関係のSymposiumもあり、R.H.Morgan,G.M.Ardran,H.schobet,K.Rossmann,T.Holm,J.Feddema,R.D.Moseley,O.Schott,W.F.Niklas,A.Bouwers,L.F.Guyot,W.K hl,E.Feuner,L.B.Lusted,B.Combee,B.J.M.Botden,W.F.Schreiherなどのそうそうたる外国の研究者も参加され、MTF、像処理、コンピューター関係の発表も多いとのことで大いに期待している。我国の放射線像研究は世界のトップレベルを行き、多数の論文が外国雑誌にも採用されており、放射線医学の他分野と比べるべくもないと言っても過言でないと自負してよかろう。ICRを迎えてこれらの研究者と研究成果を交流し、一層の発展のために努力しようではないか。

昭和44年1月(大学問題騒然たるとき)

編集委員  井上 多門   内田 勝

梅垣 洋一郎  金森 仁志

木下 幸次郎  佐々木 常雄

佐柳 和雄  高野 正雄

竹中 栄一  津田 元久

土井 邦雄  野田 峰男

長谷川 伸  松田 一

 

編集後記

  ここに“放射線像の研究”第2巻を発刊できたことは第1巻の発刊に劣らず喜ばしい。それはこの方面の研究が、本研究会設立後、満5ヵ年に亙って同じペースで発展していることを意味しているからである。また、この5ヵ年の間に会員の中から、工学の学位を授与されたもの4名、光学論文賞受賞者1名、学界宿題報告者1名を生んだこともお本研究会の斯界への貢献のあらわれと考えてよいであろう。これらの現象が本研究会の功績の尺度となるかどうかは別としても、これみな会員諸氏のたゆまない努力と熱意のたまものであり、本研究会将来の発展を約束しているものと確信するものである。

  Student Power の荒波は学問の世界にも遠慮会釈なくは入り込んで来ている。今年の各学会報告プログラムをみても、Student Power の盛んな大学程その影響が大きくみられる。しかし、この社会改革の学生による問題提起が学問の世界において、量より質への変換を促したとすれば、禍転じて福となし得るであろう。

  第1巻、第2巻を通読して遺憾に思うことが1つある。それは落ち穂拾いがほとんどされていないことである。単なる問題提起にとどまっているだけだからである。たとえば、X線管焦点の強度分布の改良が提起されているし、X線の統計的ゆらぎが受光系の現在以上の感度の上昇を押さえていることも示されている。また、断層方式の改良も提案されている。どれ1つをとっても簡単ではなかろうし、このようなことを専門にとりあげる大学、研究所もないであろう。しかし、問題提起だけでは、いわゆる“仏作って魂いれず”で結実は半減するであろう。やはり、本研究会の会員、ことに賛助会員であるメーカーは積極的にこれらの問題をとりあげ、研究成果を上げ、医療界に提示されることを切に望むものである。ここから医学者の積極的な参加がスタートするであろうし、それ以前に放射線技師の活動も始まるであろう。これこそ、本研究会から賛助会員へのフィードバックであると考えて戴き度い。

  この第2巻発刊と同時に、本研究会は満10年を目指して更に前進を続ける。研究白書、勧告、学術書出版と宿題は山積している。会員諸氏の暖かいご理解とご援助によって1つ1つ解決して行き度いと願っている。

  今回も、印刷業務に渡辺龍史氏、印刷事務に木村多賀子嬢の献身的なご尽力を戴いた。厚くお礼を申し上げる。

(内田 記)

 


  続いて研究白書が1970年に日本医学放射線学会雑誌 第29巻 第10号に、英文で応用物理 第39巻 第6号に掲載されました。RIIって何だろう?の識者の疑問に答えるに十分でした。和文の白書を掲載します。

 

放射線像の研究白書

放射線イメージ・インフォーメーション研究会

X線を治療、診断に用いることは以前から行なわれてきた。しかし、
より多くの人が、より安全に、より的確な診断を受けるという意味で
質的にも量的にも格段の進歩を見せたのは近々数年間のことであり、
この間に他の科学技術分野の進歩の進歩とも密接な関係を保ち、
利用する線質もいわゆるX線から種々の放射線源へ拡張されてきた。
こうした状況のもとで放射線による画像の像質研究を通し診断の質的
向上に資する目的を以って1964年RII(Radiation Image Information)
研究会が発足し、その研究活動は成果をあげつつある。
ここに研究の現況と将来への展望を述べ関係各位の参考に供すると共に
理解と協力を賜わりたい。

  放射線像とは

  医学が対象とする人体は、内視鏡や手術など、ある程度の苦痛を伴う手段を用いなければ、その内部を見ることはできない。しかし、超軟γ線からX線までの電磁波で代表される電離放射線は、物体を透過する性質をもっている。それゆえ、被検体をこれで外部から照射したり、あるいは内部に放射線源をおけば、透過後の放射線分布から内部の構造を知ることができる。被検体は生体が主であるが、標本切片や工業用非破壊検査における金属材料なども含む。

  放射線像とは、放射線の空間分布を、写真とか電子装置などを用いて観察しうる形態にしたものである。それらには、イメージ・インテンシファイアー(II)や蛍光板による透視の像、銀塩写真や電子写真などによる静的な像、および映画やテレビジョン、VTRによる動的な像などが含まれる。それらの像を作る目的はあくまでも被検体に関する情報を得ることである。医学的な目的からいうと、これらの放射線像は診断および治療のための資料であることを忘れてはならない。

  研究の目的

  実際に放射線像を得る過程では、放射線の線質、線量、線源の構造から始まり、放射線の検出器をへて、最終的に得られる像の観察条件まで非常に多くの因子が関係している。このように複雑な過程を通して、有効な情報を得るためには、それぞれの構成要素に対する必要かつ十分条件を定めることが、なかなか困難である。特に、近来エレクトロニクスが発達し、放射線像を得る新しい方式が多く導入されつつある。それゆえ、新しい方式により得られる画像情報の評価が常に必要となってきている。画像情報を定量的に評価するためには、その方式の感度、鮮鋭度さらに雑音などが一般化された形でかつ合理的な方法によって記述されねばならない。

  放射線像研究の目的は、より少ない被爆線量で、より多くの情報を得ることである。これらはただちに医師の診断を有利にすることをねらうものである。したがって、その目的を達成するために必要な技術について、基礎と応用の両面からの研究をしなくてはならない。また、そこで得られた結果は、すぐに利用できるようにし、それを必要とする人々に提供されなくではならない。

  研究の現状

  この放射線の研究とその医学への積極的応用を目指し、放射線イメージ・インフォーメーション研究会(RII研究会)は1964年3月に発足し、現在まで活躍を続けてきた。研究会は、原則として年4回開催され、すでに22回をかぞえている。会員は医者、技術者および研究者からなり、その数は現在105名である。

  1966年4月には、第9回研究会までの成果として、57編402頁におよぶ研究報告が“放射線像の研究−第1巻−レスポンス関数−”の標題のもとに出版され、また1969年4月にはだい19回研究会までの成果が64編443頁の“放射線像の研究−第2巻−解析と評価−”として出版されている。第13回研究会以後は、毎回研究発表と討論を各回の報告として“研究会記事”が刊行されている。この間、国際光学会議(1964年、東京および京都)の開催時には、海外からの研究者を交えインホーマル・ミーティングが開かれ、また1966年には日本医学放射線学会物理部会ではシンポジウムが開かれた。第11回国際放射線医学会議(ローマ)、第3回放射線診断法討論会(シカゴ)には、数名の会員が招待され、参画した。また、ICRU(国際放射線単位および測定委員会)のレスポンス関数測定法に関する勧告作成委員会から協力が要請されている。また1969年10月第12回国際放射線医学会議(東京)が開かれ、X線像質に関するシンポジウム、レスポンス関数に関する発表と討論、インフォーマル・ミーティングを持った。

  この5年間における研究の過程で、最初に取り上げられた課題はレスポンス関数の導入であった。これは解像力、Nitkaの鮮鋭度指数などに比べ、もっとも合理的な鮮鋭度評価法でありかつ複雑なシステムにも応用できる。とくに、X線管焦点と蛍光板がまず論じられ、次々にその対象が拡げられていった。ついで、写真フィルムや増感紙などの粒状性が問題となり、さらに画像の情報量を算定しようとする情報理論的な研究も並行して行なわれてきている。また、X線TV系の普及や、アイソトープ・イメージ装置の利用の発展にともなう新しい問題が次々と登場しつつある。それらに対する研究は、現在別々に進められている。今後はこれらも含んだ放射線像の記録、観察のための各方式をより精密にかつ一般的に評価する理論とそれに基づく計測方法がますます重要になってくるだろう。このように多くの研究成果が報告され、その中にはすでに実用し得る貴重な結果も含まれている。しかし、それを必要とする人々によく知られているとはいえない。そこで、今までの成果の内すぐ実用できるものを医学的に活用し得る人々に伝えなくてはならない。この面でのわれわれの努力は、今まで充分であったとはいえなかった。

  RII研究会は、以上の理由から教科書及び勧告の作成を行なうことにより、すでに確立した技術の普及を積極的に推進したいと考えている。

  研究の見通し

  今までに研究が進みすでに実用し得るものや、また現在研究の進みつつあるものの1部を除き、将来重要になってくると思われるものについて問題の所在、研究の目的を述べる。

  放射線像を研究する目的は、できるだけ少な線量で診断に必要かつ充分な画質の像を得ることである。それには次のような分野の研究が必要である。

  (1) システム解析と像評価

  現在まではX線管焦点、増感紙、II、TV、それにコリメーターなど放射線像を形成する個々の要素についての研究が独立に進められてきた。これらの結果は直接撮影、間接撮影、X線映画、X線TV、シンチカメラ、シンチスキャナー、などの具体的なシステムの評価に利用されることが望ましい。ここではシステムを構成する個々の要素と全体との関係を明らかにしながら、縦に通した評価およびシステム間の横の比較が必要である。それには放射線像におけるシステム解析の考え方や手法を早急に確立しなくてはならない。

  たとえば最近のX線TVのような高感度システムにおいては、感度と画質が無関係でないことがわかっている。これらの関係をどのようにとらえ、計算するかが1つの問題であろう。

  (2) 量子雑音の解析と処理

  従来雑音の研究では、雑音が画像に無関係に加わってくると仮定していた。したがって研究は多くの場合均一に露光した場合に限られていた。しかし、変換系の感度が向上すると、画像を形成する放射線量子はごく少なくなり、そのため量子雑音による粒状性を示す、これはもはや上で述べた加法的な雑音ではないので新しい解析方法及び信号対雑音比の研究が必要となる。またそのように少ない量子からいかに多くの情報をひきだすかが今後の大きな問題である。たとえば量子雑音のある画像のスムージングなどによる処理方法も1つの方法である。

  (3) 情報源の性質

  これに関する研究の1つとしては被写体のスペクトルなどについて、すでにRII研究会の会員によって始められている。放射線像研究の対象は被写体の部位、その経時的変化、造影剤の有無などによって多種、多様である。診断に必要な情報は何かということが把握されているとはまだいい難い。それゆえ、今後の強力な研究推進が望まれる。

  (4) 呈示と観察

  X線写真やシンチグラムなどの観察条件は、多くの人々の検査対象となっている。また連続撮影、拡大撮影、立体透視などのように観察し易さを1つの目的とした呈示法も使われている。今後合理的な観察方法を用いるために呈示と観察の基礎について考えねばならない。一方、エレクトロニクスや応用物理においてデイスプレー技術や視覚の物理が発展しており、それらの成果を活用することができよう。  

  (5) 像改良

  光学的なフィルタリング、撮像管などを使った電子的処理、電子計算機を用いたデイジタルな像処理など、この面での最近の技術進歩は著しい。これらの成果は放射線像にも応用でき、それによって診断率の向上が期待される。これと(6)とは従来RII研究会が行なってきた研究とは一見異なった分野に見えるが、それらの基礎は同じである。従来の研究は評価を目的としていわば受身の立場であったのに対し同じフーリェ解析技術を積極的に応用して、より有効な診断に役立てることができる。

  (6) 自動診断  

  ここには主として電子計算機による放射線像の読取りとその結果の診断への応用を含む。現在はまだ多くの未解決な問題ばかりであるが、上記(3)〜(5)の研究で得られる研究成果はすべてこれに役立てることができよう。その意味からここで問題点を確認し、将来の大きな分野として考えておかなければならない。

  (7) その他

  またその他の問題として、心電図、筋電図、超音波図、サーモグラフィなどを含むより広い医学分野へのフーリェ解析の応用と、コバルト、ライナック・ニュートロンなどによる、放射線の線質を拡大して得ることのできる新しい画像などがある。

  むすび

  以上述べたようにRII研究会は放射線像質に関する研究活動および研究成果の普及を通して初期の目的に沿うように努力を続けているが、今後に残された問題も多い。当研究会としては会員の充実をはかり、さらに関連分野からの協力を得て積極的に推進して行きたいと考えている。

  付記

  1968年2月の委員会において他の計画とともに研究白書の作成が討議され、以下5回の委員会をもちまとめられた。

  放射線イメージ・インフォーメーション研究会

 会長 高橋 信次(名古屋大学・医・放) 

 委員 井上 多門(東芝・総合研)

    内田  勝(宮崎大学・応物)

    梅垣洋一郎(国立ガンセンター・放)

    金森 仁志(京都工芸繊維大・電)

    木下幸次郎(芝電気・基礎研)

    佐々木常雄(名古屋大学・医・放)

    佐柳 和男(キャノン・光学部)

    高野 正雄(富士写真フィルム・研究所)

    竹中 栄一(東京大学・医・放)

    津田 元久(島津製作所)

    土井 邦雄(大日本塗料・研究部)

    野田 峰男(日立・亀戸工場)

    長谷川 伸(電気通信大学・電子)

    松田  一(大阪府立成人病センター・放)

 


同じ目的で

“STUDIES ON RADIOLOGIC IMAGES”

White paper

THE JAPAN SOCIETY OF RADIATION

IMAGE INFORMATION

として英文を応用物理に掲載しました。これらの研究白書は当時の放射線医学に関係ある人々に大きなインパクトをあたえました。またRII会員自身も改めてRII研究会の重要性を認識し、更に研鑽を期しました。学会に名称を変更するまで、まだ2〜3の記事がありますので、続けます。

 

第20回 1969年2月

研究会記事

 

編集後記

  恩師金原教授から、“Student Power と大学”と題する講演記録を戴いた。早速先生の了解を得て掲載させて戴くことにした。そのとき先生は“これをたたき台として各人理性をもって考えて下さい”と付け加えられた。紙上をかりて厚くお礼を申し上げる。いまや大学問題は単に大学だけにとどまらず、社会問題として世人の関心事となっている現状である。

  最近、心象的な話を聞いた。それはある会社の課長の話である。多年胃病になやまされ、X線テレビ装置を設備している大病院で診察を受け、胃カメラも併用して胃癌であると診断された。課長はその後他の大病院2ヵ所でX線テレビによる透視および写真で更に精密な検査を受け、やはり胃癌であることが確認された。課長は最後にわらをもつかむ思いで、消化器診断では名医と評判の某医師を訪れた。その病院ではX線テレビどころか未だ約10年前のX線装置を設備しているとのことである。2時間半に亙る診察、30数枚におよぶ写真によって診断の結果、神経性の胃炎であることが判明した。課長は喜びのあまり、その写真をもって今まで診察を受けた医師に再診を乞うた。3ヵ所の医師は異口同音に“この診断は正しい。これだけの診断能力に敬服する。”と言ったという。

  読者はこの話をどのようにお考えになりますか。

  この名医が最新のX線テレビ装置で同じ診断が下せたかどうか。下せるという見方もあれば下せないという意見もあろう。要は医師が全人格をもって診察するか否かにかかっていることである。決してテレビが悪いのではない。X線に患者と同様にさらされて、真っ暗な中で自分の命をけずって診察している環境は全人格の投入を必然的にし、一方放射線に対して安全な明るい隔壁内での便利な作業は冗長度を増す違いない。

  ここに金原教授の“Esprit cartesien”を見ることができるし、また湯川教授の“人間が独自の自然認識あるいは自己認識の能力を備えているという特質が蔑視されると、機械の側だけがとめ度もなく精密化し、巨大化して、人間の存在を矮小化してしまうのを妨げないだろう。機械が人間よりある点で優位に立つということはあっても、人間には、どこまでいっても、「すべてを根底から疑う」という貴重な能力が残されているのを、誇りとすべきである。”を今更のように認識した。

  われわれの研究にしても、巨視的な見地から微視的に仕事をすすめまとめるべきである。このいずれが欠けても、専門バカ、知識バカとなりかねない。いやはやこの世はままならぬものである。

(内田 記)

 

放 射 線 像 研 究

VOL.6,No.4 (通巻49号) 1976年11月

(巻頭言)

放射線像の評価と改良

浜松医科大学 副学長

高橋 信次

 

  放射線像は二つの面をもっている。一つはその評価に物理学的な知識を必要とし、またその改良には工学的技術が優先する面である。他の一つはその利用には医学的知識が必要で、読影に役立たないと意味がないという側面である。放射線像が良くなくては、良い読影、すなわち良い医療はできない。放射線像はこの二つの面を調和させて始めてよい評価が得られる。

  一般のX線診療では、放射線医師がある程度の物理学的工学知識をもっておれば、この二つの面は簡単に調和する。放射線専門家が他科医よりよい読影のできる所以である。しか放射線像に新たな進歩を与えるような重要な開発が行われるときには、放射線医の知識だけでは及ばないことがでてくる。物理学者、工学者と放射線医との間に学際的な良い協力が必要になる。

  理学的方面の知識が充分でも医学的にはあまり役に立たないという例に、私は低圧撮影から高圧撮影への推移の例を挙げたい。低圧撮影では基礎黒化度が充分で、病巣の対比度が高いのがよいとされていた。昭和28年頃から医師は対比度が低い高圧撮影が診療には役に立つということが判っていたが、なかなかそのような写真は限られた施設以外には撮ってもらえず、評価もされなかった。放射線像の評価が両者で異なり、協同作業が悪かったためである。

  放射線像の改良に理工学的立場の人の協力がよく行われた例は断層撮影の歴史をみるとよく判る。オランダのZiedses des PlantesあるいはイタリーのVallebonaがこの撮影法の開拓者で医者である。この二人のそれぞれの論文は、しかし撮影の原理をのべ、生体のある撮影例を示すにとどまった。それから2年ほどたって、Fortschr.R ntgenstr.にGrossmannが長文のTomographieという論文を書いた。この論文は像の成立から装置の組み立て方、およびX線像の評価にいたるまで、委曲をつくした大論文である。この論文のおかげでTomographieの評価は定まり、現在、断層撮影の名前がTomographieとなったほどの深い影響を及ぼした。Grossmannは物理学者であって医者ではなかった。Tomographieの臨床的の面をChauolが受け持った。そしてGrossmannの足りないところを補完した。  

  これと同じようなことが横断撮影でもあるようだ。GebauerはWachsmannと共同でFortschr,R ntgenstr.にやはり長文の論文を書いた。もっとも、ここでも少しくGrossmannの影響が強すぎて、例えば、対比度の良い写真を撮るに急なあまり、管球フィルムの傾斜角度を30°と規定している。日本ではこの角度はきわめて小さい。10°もしくは13°から出発し、20°がせいぜいである。それ以上になると障害陰影あるということを主張した。現在では国際的にもこの撮影法の傾斜角は20°内外に落着いている。これは本邦ではこれらの理論形成が主として医者の側からおこったからであろう。

  しかしこの場合、物理学者であるGrossmannもしくはWachsmannはこれらの撮影法における放射線像の進歩のためにきわめて重要な役割をなした。私はこのような理学系の人たちが活動しなければ、現在のCTの改良はーたとえそれが医学的な面からであろうともーおぼつかないだろうと思っている。それはアメリカでは特によく行われているようだ。

  本邦でも戦後に放射線技師学校ができるようになり、あるは放医研、あるいは放射線傷害に関する研究所が設立されるようになって、放射線物理学者の数がふえて、その方々の放射線像に関する評価・研究等も活発に行われるようになり、現在では日本のみならず外国でも土井さん、佐柳さん等はその力量を高く評価されるようになっているのは、まことに喜ばしい。

  急激に放射線像が開発改良されている現在、放射線像の評価に関しては、物理学者、工学者、医者の渾然とした学際的協力がさらに望まれると思う。


  以上は“RIIの原点”と題して記録を集めた文集です。RIIが出来た当初如何に各方面から期待され、将来を嘱望されていたかが良く判ります。医学会からの期待が大きく、当初は医学者からの質疑・関心が高く理工学者・技術者も張り切って応えて来ましたが、医学者にとって余りに難解なためであったのか次第次第に医学離れが進み、理工学者・技術者の研究の場が多くを占めるようになりました。

  こいれではいかぬと多くの識者は自覚していました。しかし画像が原点であっても、画像を作る手段も付随していることから、主に放射線の線質・スペクトル・線量などの研究が進められていました。また医用画像の評価もディジタル画像の開発と共に新たな評価法がテーマとして盛んに研究されて来ました。しかし医学者の本格的な参入が望めないのは遺憾の極みでした。

  この傾向は“医用画像情報学会”に衣替えした当初でも続いていましたが、最近に見られるCADの興隆はこの悩みを吹き飛ばす端緒となりつつあります。それは医学者も理工学者も技術者もお互いに他分野の学識を必要とするからです。極めて密接な共同研究はRII当初からの期待を見事に実現しつつあると言えるでしょう。

  このCADの研究が放射線画像のみならず、医用画像の多くの他分野に適用され、医師・技師・理工学者の共同研究が益々密接になる事を切に希望します。CADに供される画像の製作についてもまだ充分とは言えず大きなテーマが残っています。RIIを引き継いだ現在の医用画像情報学会の使命は未だ未だ前途洋々たるものがあると信じて疑いません。

(2002.11.)