述語論理学

命題論理学の分かりやすさと述語論理学の分かりにくさ

趣味で論理学を勉強しているものにとって命題論理学はありがたい。なにしろ分かりやすいのである。真理表なら少し習っただけで中学生でも書けるようになるだろう。LPの演繹定理の証明も簡単な数学的帰納法の適用であると理解できる。LPの定理とトートロジーが同値である事を証明した完全性定理もちょっと苦労するが理解できる。完全性定理が理解できると、論理は命題の具体的な内容に依存しておらず、純粋な推論の構造であるということが実感できて、ソシュールの言う記号の恣意性や、ヒルベルトの「点が椅子で、線が机でも構わない」という言葉の意味の面白さが分かってちょっと感動したりする。

ところが述語論理学の章に入った途端に途方にくれてしまう。まず真理表が書けない。LPの定理を直感的に理解するのに真理表のイメージをかなり利用してきたのにその肝腎の真理表が見当たらないのである。また自由とか束縛とか色々な付帯条件が発生してきてすっかり混乱してしまう。しかし、良く見ると述語論理学にも演繹定理があったり、完全性があったり、なつかしい命題論理学の性質も保存されているようなのである。

そこで途方にくれた素人が考えついたのは、「述語論理学を命題論理学に還元できないか」ということである。「述語論理はこう考えれば結局のところ命題論理学とたいして変らないのだから、命題論理だけしっかり勉強すれば、述語論理も分かったつもりになれないだろうか。」と考えたのである。

述語論理学を命題論理学に還元する

まあ前置はこれくらいにして、命題論理学と述語論理学はどう違うのだろうか。命題論理学は命題が単位なので、命題 A が真の場合と偽の場合について考えれば良かった。一方述語論理学は、命題をさらに個体とそれに関する述語という二つの構成要素に分解する。そして、個体に関して「すべての x について」とか、「ある x について」といった量の観点を導入し、「量的理論」の立場で論理を解明する。この時点で真理表が書けなくなってしまうのである。

しかし、命題関数 P(x) に個体 a を代入した P(a) は紛れもない命題である。従って個体 ai の属する集合 A が有限集合であれば ∀xP(x) の限量記号のついた命題も次のように命題論理学で扱う限量記号のない命題に変換することができる。

∀xP(x) = P(a1)∧P(a2)∧...∧P(an)

また ∃xP(x) は次のようになる。

∃xP(x) = P(a1)∨P(a2)∨...∨P(an)

こう考えると ~∀xP(x) = ∃x(~P(x)) のようなものもド・モルガンの法則を適用すると簡単に理解できる。個体が有限集合の場合は述語論理といえども命題論理学に完全に還元することが出来るのである。

述語命題論理学にあらわれる無限要素命題を持つ命題

そうは言っても、述語論理学は個体が無限にあるときも適用できなければあまり価値がない。そこで述語論理学の場合個体が無限に存在する場合の

∀xP(x) = P(a1)∧P(a2)∧...

のような命題 ∀xP(x) についても真偽が確定できると考えるのである。しかし無限個の命題の連言からなる命題に真偽が確定できるのだろうか。ここで重大な読みかえが行われる、無限の P(ai) を列挙することは不可能であるが、任意の i について P(ai) が真であればそれら全ての連言である ∀xP(x) は真であると考えられる。例えば添字の i が自然数であれば、P(an-1) が真であれば P(an) も真であると言うような数学的帰納法を利用して任意の P(ai) が真であるというような議論ができる。また、添字の i が非可算であってもなんらかの方法で P(ai) が真であることが保証されれば、命題 ∀xP(x) の真偽を定めることができる。

...と、ここまで書いてきて精力が尽きてしまった。しかし、ここで言いたかったことは、述語論理学と言えども命題論理学の拡張であるが、ただ、無限の要素命題の連言や選言を命題として考えるところが、命題論理学との違いであるということである。

無限要素命題の連言の問題点

命題論理学では、個々の命題はあくまでも有限個の要素命題から構成されているため真理表を考えることが出来るが、述語論理学では無限個の要素命題からなる複合命題の真理値を考えるため真理表が書けないのである。

また、ゲーデルの不完全性定理はこの無限要素命題の作り方によって発生する問題のような気がする。さらに、それには、帰納的定義の性質が関与している可能性がある。つまり、述語論理学の完全性と、自然数論の不完全性の関係は、自然数の可算性と自然数の冪集合の非可算性との関係の反映ではないだろうか。

無限の要素命題の連言について、要素命題が可算の場合は数学的帰納法によって全ての要素命題が真である事の保証ができるが、非可算の場合要素の列挙が帰納法ではできない場合も起こって来る。∀xP(x) の場合どれかひとつの要素命題でも偽であれば真であることはできないから、帰納法で要素命題が列挙できない場合は、これを真とも偽とも定めることができないのである。

素人は命題論理を勉強しよう

ともあれ、こういう訳で、素人は命題論理学さえしっかり勉強すれば論理学の恩恵のほとんどを亨受することができるのである(と願いたい)。