1.jpg (90175 バイト)
写真をクリックすると拡大して表示します。

私はLPレコードが大好きである。

「だってあんなに魅力的な服(生地もデザインも)を着ている上に 中に入っている黒いビニールに針を落とせば何と音楽まで聞こえて来るんですよ」と言ったらあまりにも冗談が過ぎるだろうか? そう それほどジャケットは私にとって大事なファクターなのである。だから聴いたことの無いLPが棚にたくさん並んでいる。 

  アナログ再生特集の企画を進めるなか 関係者がしばしば次のような聞き捨てならない言葉を口にしていたらしいということを某編集長から小耳に挟んだ。曰く「それにしてもクラシックLPのジャケットデザインってどうしてあんなにつまらないんだろう・・・」等々の話を聞いた私はさっそく反論しようとイキリタッテしまったのだが、「いや待て待て、確かに冷静に考えてみると思い当たるフシが無いとも言えないなア」と一度振り上げたコブシをそっと下ろしてしまった。

お城をバックにして湖に浮かぶ白鳥の写真や高名な泰西の名画、はたまたストイックに楽譜を見つめるお世辞にも躍動的とは言えない老巨匠の肖像画が 彼ら(問題発言者?)の感性をワシヅカミしないのも至極当たり前のことだと妙に納得してしまったせいである。もちろんコレクターの私にとってはその殆どが魅力に満ちたジャケ達なのだが、彼らへの反論となると少々厄介である(と言うか面倒くさい)

また こんな論争に判定を下してくれる裁判官を探すのもナンセンスで、もうこれは「そのテイストを受け止める側の個人のセンスの問題」としか説明のしようが無いという言ってみれば最初から分りきった結論に達してしまったのである。だがそうと決まればかえって話は早い。

先ずはさっそく次項@をご覧いただこう。

 

>>INDEX

A アイドルのプロマイド型

B 神々しい修験僧型

C 第○集型

D デザイナーズブランド型

E てにをは型

F ワザトラ型

G オートクチュール型

H ナイスショット型

I ワビ・サビ型

J その他型(miscellaneous)

ご意見・ご感想

「例によって陳腐なデザイン」と思わば思え(笑)一向に構わない。しかしベートーベンが遺した感動的な癒しの旋律「嵐の後の神への感謝」に全身が包み込まれた経験を持つ者にとって このジャケ(もちろんタイトルも含む)はかけがえのない宝物なのである。英EMIの初期ASD規格の中でも特に自然な音の減衰を捉えたRPO録音が更に名演に花を添え云々・・・とまでは敢えて言及しなくても・・・否、何の変哲も無い図柄がジャケットという形態をとった瞬間に生き生きと輝き始めると表現した方がむしろ正確かも知れない。

 

@ 英HMV ASD349

 R・クーベリック ベートーベン 田園

さて あまりカルトなタワゴトばかり書いているとますます相手にされなくなってしまうので、ここで星の数ほどあるクラシックLPのジャケデザインの魅力をこれまた強引にいくつかのテーマに類型化して紹介してみたい。心ある識者からすれば正気の沙汰では無いと思われるだろうが、アホなLPオタクの私見としてご容赦願う次第である。

*尚このあたりのアカデミックな事情については 沼辺真一氏が美術出版社より「12インチの ギャラリー(LP時代を装ったレコードジャケット達)」という立派な本を残しておられるので私のような暴力的な駄文に辟易した方は是非こちらを読んで軌道修正されることをオススメしたい。

A アイドルのブロマイド型

 J.スタッフォードやJ.クリスティーとは意味合いが異なるがクラシック界にも美人はいる。ただし知性の香りが漂っていないとゾクゾクと迫って来ないところがクラシックファンの性格を端的に物語っている。多くの場合 後年の写真は見ない方が良いのだが ここに挙げた4人は上手に年齢を重ねた

独エレクトロ-ラ SME81054 L.ポップ モーツアルト もテット他
蘭フィリップス 9500716 F.V.シュターデ オペラアリア集
独エレクトロ-ラ 0053-28024 E.マティス ヘンデルアリア集
英コロンビア 330X1231 M.カラス オペラアリア集

B 神々しい修験僧型

 逆に禁欲的な求道の姿勢に感動を覚えるのも我々の特徴(笑)さらに「悲劇的な死」とか「ナチから迫害を受けた」といった経歴はありがたみを倍加させる。E.マイナルディというこのテーマにうってつけの容貌をしたチェリストがいるのだが、写真入りのジャケが手許に無いのが悔しい。尚EはABが同居した格好の例

英コロンビア 33CX1040 シュワルツコップ&フィッシャー シューベルト歌曲集
露メロディア M10-42633-004 G.エネスコ 名演集
端クラ-ヴェス P-235 P.L.グラーフ 無伴奏フルート作品集
独テレフンケン HT5 G.クーレンカンプ ベートーベン ヴァイオリンソナタ

 

C 第○集型

 クラシックファンには几帳面な人が多いこともあってか?「LP全3部作」とか「全集シリーズが5枚で揃い」等、あるユニットを完結させる喜びは何者にも変え難い。単なる色違いシリーズであることも多いが デザインにもヴァリエーションがあるとそれだけで欲しくなってしまう。概して揃いで買うと高価なので、現在我が家では常に複数のビンゴにリーチがかかっている

英デッカ SXL6767-9 V.アシュケナージ  プロコフィエフ ピアノ協奏曲全集
東独エテルナ 825375-6 ウルブリヒQt ハイドン 太陽四重奏曲

 

 

D デザイナーズブランド型

 レコード会社お抱えの専門家以外にもたくさんの有名人が優れたジャケットデザインを遺している。A.ウォーホールやJ.コクトーのものは音楽ファンならずとも食指が動くところ。ここではイヴ・サンローランのロゴタイプ製作者としても知られるポスター作家、カッサンドルの作品に絞って紹介する。紙質を含めた 見事なリトグラフの印刷技術までお伝えできないのが残念

仏VSM

FALP549 G.スゼー ラヴェルを歌う
仏VSM FALP530 P.デルヴォー フランス管弦曲集
仏パテ DTX116 A.クリュイタンス ロシアの音楽
仏コロンビア FOX567 I.マルケヴィチ 音楽の捧げ物

 

E てにをは型

 いわゆる「間違い探し」のジャケット版。発売国によってタイトル表記は異なって当然だが ここでは微妙なデザインや構成の配置の違いに注目して欲しい。江戸時代に源を発すると言われる書式や修辞(てにをは)への拘泥の伝統が 未だに規制緩和の遅れている役所や業界、それとクラシックLPコレクターの中にだけは?奇跡的に今でも脈々と受け継がれている

英デッカ SXL2231 カルミレッリQt ラヴェル&プロコフィエフ
英デッカ LXT5587 カルミレッリQt ラヴェル&プロコフィエフ
英RCA SB2049 H.シェリング ブラームス ヴァィオリン協奏曲
英RCA LSC2281 H.シェリング ブラームス ヴァィオリン協奏曲
米RCA LM1052 パガニーニQt ベートーベン弦楽四重奏4&5番
米RCA LM1729 パガニーニQt ベートーベン弦楽四重奏1&2番
米RCA LM1179 パガニーニQt ベートーベン弦楽四重奏15番

 

F ワザトラ型

 一転してサブカルチャーの領域にまで踏み込んだ いかにも作り物ミエミエのデザイン。しかしこの大道芸的なクサさが レトロ復活の21世紀初頭の今 盛んに見直されているらしいのは嬉しい限り。本来はのデザイナーズブランドに分類すべきかもしれないJ.ロウやA.スタインワイスの作品群は むしろこちらの視点から復刻CDのカバーアートに採用されている

日コロンビア OQ7396S スメタナQt スーク・マルティヌー
米ヴァンガード VSD2096 ボスコフスキーアンサンブル ウイーンのロリポップ
米コロンビア ML4739 D.ミトロブーロス ショスタコービチ第5交響曲
英WRC T338 A.ヤニグロ他 ブラームス 二重協奏曲
       

 

G オートクチュール型

 まさに曲と演奏のイメージを的確にフィーチャーした手の込んだオリジナルデザインのジャケット。これらを眺めながら聴く再生音はむしろ実際以上によく聞こえる?というスグレモノ達。幅広い教養と素質を兼ね備えたごく一部の達人の手にして初めて成し得るワザの結晶で コスト意識と分業化が極端に進んでしまった80年代以降はほとんど姿を消してしまった

米RCA LSC2292 C.ミュンシュ フランス管弦楽曲集
英デッカ SXL2105 A.ウォルフ 舞踏への勧誘
英キャピトル SP8506 M.ラビン ヴァイオリン小品集
米コロンビア

-

Z.フランチェスカッティ&R.カサドシュ デュオ

 

H ナイスショット型

演奏家のダイナミックな動き(と目に見えない汗)を見事に捉えた秀作写真のジャケ。ハードルをやや下げればもっと多くの作品が該当するのだろうが、古典音楽ではリキんでサックスを鳴らしている様子だけでファンの心をくすぐることができないため 芯を食ったドライバーのナイスショット同様 ソノ瞬間を捉えるのは至難の業とみえてこの類に該当する力作は実に数が少ない。ここでも2枚だけ紹介

仏VSM FALP521-2 G.シフラ リスト 12の練習曲集
独エレクトロ―ラ WBLP563(10インチ) W.フルヴェングラー ベートーベン レオノーレ序曲

 

I ワビ・サビ型

 ご存知日本人特有の感覚領域。「簡素の美」とでも言おうか ゴテゴテと飾り立てることなく最小限のシンプルなデザインで想像力を喚起してくれる。尚 究極の姿は「龍安寺の石庭」を飛び越えてホワイトアルバムになってしまうわけだが、ここでは全て弦楽四重奏のジャケで統一してみた。何故かトリオ(三重奏)ではこの感じが出ない。据わりが良すぎるのだろうか?

英VOX PL9250 バルヒェットQt ドヴォルザーク作品106
米コロンビア ML4982 ニューミュージックQt シューマン作品41
独エレクトロ―ラ WCLP535 ヴラフQt ドヴォルザーク&ヤナーチェク
独DG 2740250 アマデウスQt ハイドン管弦四重奏集成

 

J その他型(miscellaneous) 

     もともとが牽強付会的なコジツケ分類であったため まだまだ紹介したかったジャケがいくつかスピンアウトしてしまったので 最後の項目として取り上げた。しかしデザインで選んだつもりなのに名録音揃いであることに我ながらビックリ。よくよく考えてみるとこれまでA−Iで取り上げた盤にも「ただし演奏は・・・」という但し書き付の物は皆無で、実はこの辺にも優れたジャケの秘密が隠されているのかも

英デッカ LXT2510 A.コリンズ ビゼー カルメン組曲集
蘭フィリップス 6527049 Aグリュウミォー ヴァイオリン協奏曲
米ハイドン協会 HSQ39 シュナイダーQt ハイドン「十字架上の7語」
米エべレスト SDBR3052 A.フィストラーリ ハチャトリアン ガイーヌ
英デッカ LXT2965 C.クラウス J.シュトラウス集
独DG 2530193 M.アルゲリッジ リスト&シューマン ピアノソナタ
英HMV ASD466 T.セラフィン イタリアオペラ序曲集

以上

 
ざっと駆け足でクラシックLPの
ジャケットの魅力を述べてたが 「なあんだクラシックLPコレクターって単なる西洋かぶれのネクラじゃいか」と感じたアナタ! 正解です(笑)さらに、「ジャズやロックのコレクターと同じじゃないか」と看破したアナタは、もっともっと大正解の猛者です。同類相憐れむ  ご終生さま
  

FIN